わざわざゾンビを殺す人間なんていない。 / 小林 泰三

ゾンビがごくごくフツーに跋扈しているイヤーな世界で、とある研究者が密室中で殺害されてゾンビとなってしまう。さて、彼はなぜ、そしてどのようにして殺害され、ゾンビとなったのか、――という話。

タイトルにもゾンビとある通り、被害者となる人物の研究内容にもゾンビが絡んでいるとうゾンビづくしの状況の中、意想外なところにもうひとつのホラーネタをコッソリと忍ばせて最後の最後に感動物語にしてしまうというねじくれた構成が素晴らしい。探偵役となる女性をはじめ、理屈っぽい登場人物たちの間でおりなされる会話の数々が大変まどろっこしいのですが、最後に探偵の口から開陳される密室ゾンビ化事件の謎解きも、これまたネチッこい推理で見せてくれます。

オーソドックスなゾンビの仕組みの中へ、生きる者とゾンビとの中間的存在ともいえる趣向を導入して、それを密室事件のロジックへと取り入れてみせたところは期待通り。しかしながら本作における本当の仕掛けは、現在進行形で語られる密室事件とは離れたところに隠されてい、その筋を握るのが過去のパートとなる探偵女性の昔話。最初のうちはさほどに違和感も抱かず読み進めていた読者も、後半、彼女の姉がデートへと繰り出す段階あたりで、「おや?」と思うのではないのでしょうか。

ホラー映画をかなり観ている人であれば案外この正体については容易に見破ってしまうのではと推測されるものの、本作では謎解きの段階でこの探偵の秘密を明かして、それこそが密室事件のキモであったことを論証してみせるところでしょう。

本格ミステリとしては、密室事件一つをネチっこい推理で流していくという非常にオーソドックスな構成で、犯人のゲスっぷりばかりがイヤ光りする推理の展開ながら、謎解きでハイオシマイとするのではなく、最後の最期に探偵の哀しい過去も交えて、すべては事件の渦中にあった「探偵」の物語であったことを明かして、おぞましい異世界本格をキモ美しいラヴ・ロマンスへと昇華させる幕引きが美しい。

個人的には理屈っぽい登場人物たちの会話に中盤はいささかダレてしまったのですが、野放しにされたゾンビたちに追いつめられヒロイン危機一髪というところで、トンデモない生者の群れが現れて窮地を脱したりといった、ホラー映画ではお約束ともいえる見せ場もシッカリと用意し、後半の推理でも丁寧なロジックで本格ミステリ読みのハートを鷲づかみしたかと思えば、最後には極上の恋愛譚としての哀切も見せてホロリとさせたりと、ホラー、本格ミステリ、恋愛ものと全方位のエンタメを意識しつつ、――実はそのいずれから眺めてもひねくれているところがこれまた作者の真骨頂。そしてこの斜め上を行く風格だからこそ作者のファンであれば十二分に愉しめるのではないでしょうか。

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