処女作の『さあ、地獄へ堕ちよう』からして妙に紋切り型の物語を書き続けてきた作者ではありますが、良い意味で枯れてきたような気がします。昭和っぽい筆致で異彩を放つ(?)が今回挑戦したのはバリバリの孤島もの。それもハンドルネームで呼び合う廃墟マニアたちが向かった孤島で殺人事件が発生、――といえば、新本格の名作中の名作『十角館』を誰しも思い出すに違いありません。実際、”そういう”仕掛けはあるにもあるものの、『十角館』っぽい驚きを期待した読者を良い意味で裏切る趣向には感心至極。個人的にはかなり愉しめました。
物語は、かつて孤島の廃墟巡りに参加したカノジョの死に不信を抱くボーイがその真相を探るべく関係者に聞き込みを行うパートと、孤島での廃墟巡りが平行して語られていく、――となれば、新本格以降の現代本格を読み慣れた読者が、上にも述べた通り『十角館』をイメージしてこの二つのパートには”そういう”仕掛けがあると考えるのは当然の理。そして作者はそうした読者の先読みをくみ取りつつ、巧みに物語を進めていきます。
語り手の一人であるボーイが語る元カノの過去には曰くがあり、彼もまた知らなかった裏の性格があることが明かされていくのですが、これが仕掛けへの巧妙な伏線となっているところが面白い。しかしながら、これについては『十角館』と違い、後出しじゃんけんみたいな強引さで読者がその存在を知り得なかった一つの事実を提示してババッと仕掛けを明かしてみせるというやや強引に傾いたやりかたゆえ、アンフェア云々に並々ならぬ拘りを持った読者であれば、知るかコン畜生、という評価を下されるやもしれません。個人的にはあまりそういうことには頓着しない性格なので、自分にはまったく没問題。素直に愉しめました。
そしてここまで『十角館』のモチーフを鏤めつつ、最後に明かされる真相から、この作品が狙っていたのはまったく別の作品、――ネタバレ回避のため文字反転しておきますが、『イニシエーション・ラブ』だったというところが面白い。もっともあちらの作品と違って、本作のボーイはひたすらアグレッシブに行動して、ある行為をきっかけに奈落へと落ちていく(しかし本人にはその自覚ナシ)展開が異なりますが、二つのパートが重なりを見せてこの物語の全体図が明らかにされても、主人公たるボーイには同情も憐憫もまったく湧かないところがなんともはや。謎解きを牽引する人物同様、ひたすらドライにキメまくった一冊ゆえ、何かしらの叙情を求める向きにはアレですが、アレ系でさらっと欺されてみたい、なんて人にはなかなか愉しめる一冊といえるのではないでしょうか。
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