『神の値段』で第14回『このミステリーがすごい! 』大賞を受賞した作者の新作。前作は、産経新聞のインタビュー記事に掲載されていた著者近影が自分の好みの美女(可愛い系の田丸麻紀か、はたまた小川彩佳かというカンジ)だったから、――というかなり不純な動機で手に取った一冊でしたが(爆)、それだけじゃアンマリだろ、とそんな動機から作者を知った罪滅ぼしにと(?)、本作も購入してみた次第です。
物語は、人間国宝の次期候補とされる陶芸家が、何者かに殺されてしまう。その窯元で修行をしていた娘っ子は、彼が生前秘密裏に制作していた曜変天目なる器が事件に関わっているのではないかと疑う。彼女は、美大の先輩にして保存科学の専門家の男性とともに事件の謎を追うのだが、――という話。
曜変天目なる製法が謎めいた器の存在や、陶芸家の後継者にまつわる血の縁、さらには怪しげな新興宗教の存在など、事件の構図に張り巡らされた趣向はなかなか堂に入ったもので、特に登場人物たちの隠された縁を陶芸という芸術の宿業と重ねて、人間ドラマを生起される後半部の展開が素晴らしい。殺された陶芸家の息子のささやかな挙措に込められた心の機微が、父と息子それぞれの隠された思いに大きく絡んでいたり、絶対に怪しいと思われた新興宗教の関係者が思わぬ縁を持っていたりと、登場人物たちの相関を細やかに交叉させて事件の全容を炙り出す結構が秀逸です。ストレートな『神の値段』から作者はかなり成長したなァ、と感心至極。
最重要容疑者と思われていた人物が後半にアッサリご臨終となり、そこに仕掛けられた物理トリックは、シンプルでありながら陶芸の製法に大きく関わるあるものを使用しているところが面白い。そして凶器に絡めた違和感から、事件現場に残された犯人のささやかなミスを端緒として、「え? この人が犯人だったの?」という意外な犯人(というか、すっかり忘れてましたよ、この人の存在)を、陶芸の知見から炙り出していく推理も面白い。
全体的には、『相棒』の中の一話として映像化されてもマッタク違和感がないような物語で、特に陶芸の技法と、後継者における血縁のあり方を巧みに重ねて人間ドラマを丁寧に描き出した趣向は評価されるべきでしょう。登場人物が単純な善悪に転ばず、ある部分では同情を受けるべき存在でありながら、悪へと傾いてしまったり、些細なことをきっかけにして被害者から加害者へと転じる宿業など、ミステリにおけるトリック以上に、こうした人間ドラマの描写に注力した作風は、もっぱら映像向きといえるカモしれません。
それにしても、曜変天目の怪しい輝きを模したとおぼしき、ラメっぽく光る表紙のデザインなど、ソフトカバーの単行本でありながらかなりお金をかけたんだろうなァという装幀にくわえて、ジャケ帯には『久米宏さん脱帽!』という大文字とともに久米宏の写真が添えられているのがかなり謎。
本屋で平積みにされてパッと目が行くよう配慮するのであれば、久米宏よりも、作者である一色さゆり女史(美人!)本人のポートレートをデカデカと掲載した方が遙かに効果的だったのではと考えるのは自分だけではない筈です。さらにいえばジャケ帯などというチンマリしたものではなく、ジャケ自体に著者近影の写真をバーン!とあしらった方が、自分のように不純な動機で本作に関心を持たれた読者がレジへと猛ダッシュするきっかけを与えるのにも効果的だったのではあるまいか、――などなど、小説の内容そのものよりも、ジャケ帯を含めた装幀の部分に大きな謎を残したままの本作、『神の値段』が気に入った読者であればかなり愉しめること請け合いです。ということでオススメ。
しかしながら、作者である一色さゆり女史(シツコイようだが美人!!)は、検索してもSNSはもとよりブログやそのほかもろもろの情報が一切ヒットせず。ネットでの活動を自粛しているように見えるのは残念至極。ツイッターはなくても、せめてインスタで自撮り写真をバンバンあげてくれれば、自分のような(不純な動機から著者の存在を知った)読者も愉しめるのになァ……と感じた次第です。
ちなみに「美人美人って、作者の一色女史はそんなに美人なのかい?」なんて疑り深い御仁は、東京芸術大学のインタビュー記事『一色さゆりさん「言葉でアートを表現する」』にシッカリと眼を通すこと。以上ッ!
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神の値段 / 一色 さゆり
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