百二十歳の少女 古美術商・柊ニーナ / 大石 圭

傑作。「最近の大石小説は……どうも”大当たり”ってのがないなァ……」と感じているひとにこそオススメしたい一冊。あらすじは、古美術商を営むフランス人(ジプシー)と日本人と間に生まれたのハーフ美女が、ヒョンなことからフランスで呪い人形を仕入れたことをきっかけに、次々と客が呪い殺されていき、――という話。

読む前にキチンと作品紹介に眼を通しておらず、「ヒロインがジプシーの血を引いて」おり、彼女が「呪いの人形」を引き受けるということから、人形の呪いに対してヒロインがジプシーの呪術を武器に壮絶な魔術大戦を挑む、――みたいな話と勘違いしておりました(爆)。

ジプシーの血を引いていようとも、呪術云々はマッタク登場せず、ヒロインは超絶美人でスタイルも良いし、またまた例によって父親からのレイプ経験もあり、というトラウマ女性。こんな彼女がフランスで「持ち主が次々と死んでいく」という曰く付きの人形を仕入れたことをきっかけに、彼女の店でこの人形を買った上客が次々と死んでいく、――という話。

最初の呪いの標的は爺さんで、彼が人形を手に入れたその夜に飛び降り自殺をはかると、ヒロインはそれをふたたび安値で買い取ったものの、今度は、かねてよりこの人形に魅入られていた彼女の上客でかつ不倫相手でもあった男がまたまた飛び降り自殺をはかってご臨終。不審死が相次いだことで、ヒロインはこの人形を曰くを明らかにするべくフランスに趣くのだが、――というところからサスペンス風味で盛り上がっていきます。

後半には、業界でも名の知れた人形研究家の男が登場するのですが、完全なる陰キャラでヒロインに口淫を強要するあたりは、大石小説では定番の展開ながら、一度は彼女がその行為を頑なに拒み、決意も新たにふたたび男との待ち合わせ場所に赴くという流れはかなり意外。この意表をついた二人の心理劇に、ヒロインのトラウマや父親との淫蕩な行為のシーンもたっぷりと織り交ぜて、そこから人形にまつわる悲劇を明らかにしていきます。

また、人形の呪いで死んだものもいれば、このヒロインのように人形を手許におきながらも呪い殺されることのない人物もいる。いったいこの違いは何なのか、――という謎があり、後半は人形の曰くを辿りながら、陰気男から一転して紳士へと変貌した人形研究家とともにその謎を解き明かしていく展開が面白い。そして人形の哀しい過去が開陳された後、ヒロインと男の二人の苦渋の決断と、そこから一気に反転して、大石小説ではおおよそ”ありえない”というしかない、幸せ満載の幕引きへと流れていく構成もかなり意外。

「絶望」なしのハッピーエンドは、大石小説史上最高の「癒やし」を与えてくるであろうことは間違いナシ、という逸品で、前半の怪談めいた雰囲気から、フランス編で人形のまつわる謎を解き明かしていくサスペンスも交えた物語へと転じ、最後には人形も幸せ、ヒロインも幸せ、陰気男改め金持ち紳士へとキャラ変した男との祝福された未来だってあるカモよ? ――というエンディングも清々しい。もちろん要所要所でハーフ美女たるヒロインのエロ・シーンもしっかり凝らされてい、「その筋」を期待する大石ファンも満足すること請け合いという一冊です。オススメでしょう。

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