傑作。バカミス的なイメージで読み出すと大きく予想を裏切られる逸品で、堪能しました。ガチな歴史ミステリでありながら、奇想溢れる仕掛けに現代本格的な構図の反転の妙もタップリ堪能できるという真面目も大真面目な一冊で、そのあらすじは、戦国時代の九州を舞台に、残虐非道な鬼城主の統べる”紅城”で次々と起こる不可思議な殺人を、殿の腹心たるイケメンが華麗な推理で解き明かす、――という話。
斬首屍体に、毒殺に、弓矢によるコロシに、密室殺人とそれぞれを一つの物語とした連作短編としても愉しめるのですが、とにかくコロシの真相もさることながら、この鬼城主の非道ぶりが凄い、というかヒドい(爆)。これだけのワルだったら、近親者が大変な目に合っても仕方がないだろうなァ、……なんて思っていると、冒頭を飾る斬首屍体の真相は、その動機も含めてトンデモないもの。度肝を抜くエクストリームな死に様から始まり、毒殺にしても、城主が勝手に犯人を勘違いしてそいつを死に追いやろうとしたり、挙げ句の果てには、間違って弓矢で自分の親父を殺した、――と勘違いした人物を「狩り」の標的にしたりともうムチャクチャ。
現代的な検死制度がない時代ものならではの陥穽を突いた屍体の有り様や、毒殺事件における真犯人の怨念の深さをまざまざと見せつけるシンプルにして効果的な操りなど、傍点つきで探偵役の腹心が明かしてみせる真相と時代ものという制約との落差が凄まじい。
個人的にもっとも驚かされたのは毒殺事件ですが、一見すると事件には関係ないように見える日常の中の不審の数々が推理の段階で伏線へと転じて、城主の鬼キャラとその周囲の人物たちの機微とともに有機的な繋がりを見せる弓矢の殺人の構図もまた秀逸。
最後のコロシとなる天守での密室殺人を端緒として、戦国時代ならではの戦シーンも交えながら今までの推理と真相を見事に裏返して、鬼城主を超えるもっとも恐ろしい人物の正体を明らかにする幕引きも素晴らしい。これは見事にヤられました。鬼畜城主に向けられた死者と生者たちの暗い魂の叫びが壮絶な最後へと収斂していく幕引きは期待通りで、このラスト・シーンも含めて、楳図かずおの画で読んでみたいなァ、……なんてロートルの自分は感じた次第です。
奇想に猟奇に反転と本格ミステリの持ち得る魅力を、時代ものならではの背景にコッテリと描き出した残虐絵図は、個人的には最近読了した中でも群を抜く素晴らしさでした。先に感想を書いた『巨大幽霊マンモス事件』ともども度肝を抜く奇想に、”期待通り”と”期待を裏切る”双方の魅力を兼ね備えた本作は、作者のファンのみならず、時代ミステリ、現代本格のマニアのいずれもが愉しめる逸品といえるのではないでしょうか。オススメです。
0 comments on “紅城奇譚 / 鳥飼 否宇”