慈雨 / 柚月 裕子

“美乳強化塾”という特集タイトルを掲げた先週号の『anan』。その表紙を飾る手ブラ姿の田中みな実をねばっこい視線で眺めていたら、ムラムラッと柚月裕子女史の本を久しぶりに読みたくなって(この気持ち、男だったら判るよネ!)、本作をゲット。”本の雑誌が選ぶ2016年度ベスト10<第1位>“とのことですが、内容はベッタベッタでアッツ熱の警察小説でした。

物語は、刑事を定年退職した頑固男が妻と二人で四国お遍路の旅に出発。ところが十六年前に自分が担当したヤマと酷似した幼女殺害事件が発生する。彼は自分の部下でもあり、娘の恋人でもあるボーイと連絡を取りながら、心の傷となっている過去の事件と対峙する、――という話。

アマゾンのレビューではお遍路シーンが多くて退屈、なんて感想も散見されますが、神社仏閣巡りを趣味の一つとしている自分にとってこの趣向は大いにウェルカム。頑固な元刑事である主人公と、「とにかく何があってもあなたについていきますよ」と昭和歌謡な妻とのやりとりも興味深く、個人的には直接事件には繋がりのないお遍路の道中シーンもなかなか愉しむことができました。

主人公が気に掛けている十六年前の事件がいったい何なのかが中盤までハッキリと明かされずモヤモヤしてしまうのですが、彼がうなされている悪夢や、お遍路で出遭った逆打ちの曰くありげな男の悲壮な逸話も添えて、現在進行形の事件との繋がりを徐々に明かしていく展開が面白い、――といっても、ベタベタで丸わかりなのですが、それがいい。

現在進行形の事件の方はなかなか捜査の端緒が摑めず、お遍路中の主人公に、部下であり娘の恋人がたびたび電話をかけてくるのですが、ここに娘の秘密も重ねて主人公の煩悶をじっくりと描き出していく構成が秀逸です。この娘の出自と十六年前の事件に関する二つの秘密が最後の最後、存外にアッサリと収束してしまうところはちょっと意外でしたが、何しろ展開がおしなべてベタベタなので、むしろ幕引きはこれくらいアッサリ流してしまった方が後味も良く、最近の読者には受け入れやすいのかも知れません。

本格ミステリとしては、現在進行形の事件の犯人が使ったと思しき車が、犯行現場から忽然と消えてしまうという謎があるのですが、ハリウッド映画でもお馴染み過ぎるネタを開陳して、そこから一気に捜査が進展するベタな展開が微笑ましい。このベタっぽいところが、アッツアツの刑事ドラマの風格と絶妙な調和をもたらし、そこから上にも述べたアッサリめのエンディングへと流れていくのですが、このおしなべて既視感のある作風や展開に、奇抜と新奇性を求めるマニアはやや不満を感じるカモしれません。とはいえ、お遍路シーンがほとんどを占めている本作の構成を鑑みれば、あまりに奇抜な仕掛けを施してはそれがかえって物語の中で浮いてしまうやもしれず、個人的にはこれくらいのイージーさがむしろ好ましいのでは、と感じました。

昔日のDNA鑑定における信憑性など、今日的な冤罪テーマを添えた物語が、マニアよりは一般の読者を射程に据えていることは誠かで、このあたりが”本の雑誌が選ぶ2016年度ベスト10<第1位>“となった所以なのでしょう。自分が普段から読み慣れている現代本格には遠い作風ではありますが、箸休めに一息ついてこういうのもいいカモしれません。とはいえお遍路なんかに興味はないし、この物語の主人公がひた隠しにしている十六年前の事件の背景云々よりも、作者の柚月女史がその服の下へひた隠しにしている田中みな美級の(以下略)、――なんて不埒なことを考えてしまうゲスなマニアにはオススメしかねますが、オーソドックスな「泣き」の物語を堪能したいという読者であれば大いに愉しむことができる一冊といえるのではないでしょうか。

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