ルビンの壺が割れた / 宿野 かほる

「ジェットコースターのように先の読めない展開、その先に待ち受ける驚愕のラスト。覆面作家によるデビュー作にして、話題沸騰の超問題作! 」で、発売前に小説の全文を公開して担当編集者がキャッチコピーを募集するという販促活動が話題になったという一冊。短いのでアッという間に読了してしまったのですが、『NO推理、NO探偵?』と同様、本格ミステリにおける「今、そこにある危機」をヒシヒシと感じてしまった一冊でもあります。

あらすじは、SNSで偶然、昔の婚約者がリア充している写真を見つけてしまった男がお久しぶりデス、なんてカジュアルなメッセージを送りつけたことをきっかけに、三十年ぶりの往復書簡が始まって、――という話。手紙の中で二人の過去と背景が次第に明らかにされていく展開は、仕掛けがありそうで大期待してしまうのですが、存外にアッサリと終わってしまいました。

男が女へと送りつけた最初のメッセージには、SNSで見つけた写真を拡大してみて超吃驚、「そこには二十八年前に亡くなった貴女の顔があった」なんて書かれてあるから、おおッ、これは連城っぽいゾ、なんてワクワクしてしまったのですが、この意味深な発言は次のメッセージの冒頭で、「ごめんなさい。勝手に貴女を殺してしまって――。私の心の中の貴女は、二十九年前のあの日に死んだのです。そう思わなければ、あの時の苦しみから逃れられなかったのです。それでついそんな言い方をしてしまいました」なんてダサダサの言い訳とともに撤回してしまうテイタラク。

連城っぽい技巧派ミステリを期待していた自分は、ここでいきなりクールダウンしてしまったのですが、もっとも上の男の発言も、果たして二十九年前、二人の間に何があったのかと読者へ考えさせる伏線と考えることもまた可能、――と肯定的に受け止めておくことにしてひとまず先に進みます。

ここから明かされる男と女の過去の逸話は、しかしながらチープさがことのほか強く、安酒を何杯もあおりつけているような心地にゲンナリしてしまうものの、素人の手紙文体を模写した筆致は思いのほか読みやすく、最後の一行まですらすらとページをめくっていけるところは好感度大といえるでしょう。

手紙のやりとりをしていくうちに暴かれていく男と女の半生にタップリと昭和エレジーを効かせて、二人の背景と印象を反転させていく手法はなかなかのもので、ことに最後の一行によって、男女の一方が大いなる爆発を見せるオチには大爆笑。とはいえこの爆発も、秘書に暴言を吐き散らしたことをきっかけに一転して”時の人”となった某女性議員の破壊力に較べればおママゴトみたいなモンで、「話題沸騰の超問題作!」という惹句はいささか大袈裟ではないかなァ、と感じた次第です。

ところで本作、「覆面作家によるデビュー作」とのことですが、個人的にはコレ、今から十年ほど前に、これまた「12歳が描いた連続殺人ミステリー」なるキャッチコピーとともに『殺人ピエロの孤島同窓会』でデビューした水田美意子タンの”再デビュー作”だったらいいなァ、……と感じたのはナイショです(爆)。

担当編集者のアゲッぷりが相当に痛々しく感じられるものの、驚愕の結末なんてモンを大期待しなければそこそこの暇つぶしはなるカモよ、という一冊ゆえ、とにかく話題になっているものだったらなんだって飛びついてしまうような積極男子や女子にオススメ、ということになるでしょうか。保守的な本格ミステリ読みの人にとっては、『NO推理』以上にノーバリューな一冊ゆえ、取り扱い注意ということで。

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