女奴隷の烙印 / 大石 圭

あとがきによると、本作は作者の大石氏にとって六十冊目の作品になるとのこと。そしてジャケ帯には「美しき奴隷商人・サラサ登場! 新シリーズ!!」とあって『呪怨』などのノベライズを除けば、作者にはちょっと珍しいシリーズものであることが予告されています。あらすじはというと、――難病を患っている妹の子供のため自ら奴隷志願をした女性。そして売れっ子芸能人の妹を持つ姉。彼女たちを奴隷として売りさばこうともくろむ奴隷商人は龍の彫り物を背中に抱く絶世の美女・サラ。奴隷売買が行われるマカオの暑い夜、彼女はある男への復讐を誓うのだが、――という話。

香港のお隣マカオが舞台で、裏社会の中国人が奴隷売買を仕切っているという『クライングフリーマン』成分が大量投入された本作、惹句にはこれまた「おぞましくも美しい暗黒小説」とある通りに、中国裏社会の気色悪さや、美女のカンフーアクションまでをもブチこんだサービスぶりがまず素晴らしい。作者の作品で言えば、『女奴隷は夢を見ない』の下地に『人間処刑台』のアクションを加えた、――とでもいうべきか、大石流のサンプリングをしっかりと効かせた物語の風格と展開は、作者のファンであればワクワクと愉しむことができるに違いありません。

読み始めた当初は、姉妹の姉となる沙織や本作の主人公であるサラサ、さらには欺されて奴隷として売買されることになってしまった香霧と、視点がめまぐるしく変わるのに加えて、サラサの過去シーンも添えられたシーンが挿入されたりと、腰の据わらない展開にあまり没入できなかったのですけれども、サラサの悲惨な過去が次々と明かされていくとともに、いよいよ皆がマカオへと上陸した中盤以降から俄然、物語は面白くなっていきます。

サラサの家族を地獄へと突き落とした男との宿命とでもいうべきマカオでの邂逅から、奴隷売買の熱気と、その裏で密かに進行するヒロイン・サラサの復讐シーンとが平行して描かれていく後半が秀逸で、ヒロインとワルとの格闘シーンも堂に入っており、奴隷売買の悲喜こもごもの結末や、売れ残った人物の今後など、シリーズものならではのサラサを中心とした奴隷売買ファミリーが今後、どのように展開していくのか、そしてサラサがこのおぞましい商売を続けている大きな理由の一つに違いない、ある人物との邂逅はありえるのか、――など、シリーズ物としての今後が大いに気になるところではあります。

しかしまあ、お金持ちの姉妹が父の破産をキッカケに奴隷へと堕ちるという筋書きは、官能小説家の鬼才・柚木郁人氏がもっとも得意とするところでありますが、本作のサラサも沙織も柚木ワールドの住人でなくてヨカッタ、よかったと胸をなで下ろしているのは、……自分だけだろうなァと苦笑しつつ(爆)、最初からシリーズの主人公を企図したであろう蠱惑的なヒロイン・サラサの今後の活躍を持して待ちたいと思います。

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