呪術 / 初瀬 礼

確か数ヶ月ほど前に新聞の書評欄で取り上げていたのをふと眼にして手に取ったという一冊。紹介されていたあらすじから察するに、中島らもの『ガダラの豚』みたいな物語かなと興味を持ったのですが、結論からいうとちょっと違いました。

物語はというと、バツイチのツアーコンダクターが草刈正雄似のイケメン実業家を上客としたモロッコツアーで、いきなり暴虐テロに巻き込まれてしまう。どうにか窮地を脱したものの、テロ野郎どもから逃げている最中にさまよっていたアルビノの少女を救出するもの、しかしこの少女は、ある呪術師が呪術の「材料」にしようと狙っていたワケアリ娘で、――という話。

バツイチ女の視点を活かして暗黒大陸紀行に現代フウのテロルを織り交ぜた銃撃戦で魅せてくれる冒頭から、くだんの呪術師を視点に据えたパートや、避難所で母親を暴虐野郎たちに殺されてしまったアルビノ少女、さらには中盤からは落伍者の烙印を押されてしまった公安警察の男の視点なども交えて物語は進んでいきます。

いくつかのシーンが交錯しながら、中盤以降は舞台を暗黒大陸アフリカから、呪術師がターゲットとする人物が来日する日本へと場所を変え、アルビノ娘を追いかける呪術師の苛立ちや、彼女を守ろうとするバツイチ女の煩悶などの心理描写も交えて後半に大展開する暗殺の現場へとなだれ込んでいきます。そこへジャケ帯の裏に「二人の運命は? そして「呪術師」の正体は?」とある通りに、曰くつきの過去を持つ呪術師の正体はいったい誰なのか、というフーダニットがさりげなく添えられているところが本作の面白いところ。

この真相に関しては、かなりあからさまなネタも添えて「こいつが一番怪しいよ!」という流れで後半へと流れていくゆえ、自分はすっかりコイツかと思っていたら、さらにもう一つのひねりを加えて、ある人物の過去と狂気とを結びつけてその正体を暗殺シーンの展開に重ねて開陳してみせる構成が秀逸です。

アフリカの地に生きる呪術師という先入観の裏をいき、ある人物のあまりにあからさまな来歴を考えれば、当然コイツだと思っていたところへ、さらに日本人が持つであろうもうひとつの先入観を重ねてその正体を隠しおおせた仕掛けが面白い。第一の先入観に関しては、歌野氏の連作短編のアレとか、華文ミステリのアレとか、まあ枚挙に暇がないわけですが、もう一つの方は完全に油断しておりました。というわけで自分は綺麗に欺されることができたと思います。ただ、フーダニットをことさらに意識して物語を追いかけていくと、おそらくこの二重の罠には容易に気がつかれてしまうカモ、とも思えるので、ジャケ帯に書かれてある惹句については実をいうと軽くスルーして手に汗握るサスペンスに意識をゆだねたまま読み進めていく方が吉、カモしれません、――と、ここまで書いてしまってそんなことをいってもアレなのですが(爆)。

もう一つ、本作で興味深いと思ったのが、物語の舞台を東京オリンピック後の近未来に据えていることで、中国マフィアにロシアン、アフリカと外国人のマフィア勢力が大手をふるって東京を根城に悪の限りを尽くしているという舞台設定でありまして、個人的にはロシア、アフリカも交えた三つ巴の抗争という視点はかなり新鮮に感じました。オリンピック以降の経済の落ち込みも、いまなお世界の潮流の正反対を向いて過激なグルーバリズムの道を邁進する現政権のありようを見るにつけ、案外、この物語に書かれている近未来の出来事だってありえるカモよ、と――薄ら寒い気持ちになってしまったのはナイショです。

サスペンスをメインに据えたエンタメでありながら、さらっとフーダニットの興趣を添えた逸品ということで、あまり話題にはなっていないようですが、オススメしたいと思います。

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