台湾カルチャーミーティング2018第2回「若き台湾人作家の活動報告--ミステリも歴史も純文学も全部@台湾文化センター

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昨日取り上げた『怪物們的迷宮』の作者・何敬堯氏のトークイベントが昨日、虎ノ門の台湾文化センターであったので聴きに行ってきました。で、今日は簡単ながらその感想と印象を書き留めておきます。一応、司会の天野さん曰く、写真はジャンジャン撮ってSNSにもガンガンあげて拡散してOK!との事だったのですが、この日ははカジュアルなDSC-RX10M2しか携帯していなかったゆえ、掲載した写真がかなりテキトーなのはご容赦ください。

何敬堯氏のトークは昨日と昨日の二回にわかれてい、今日土曜日のほうは妖怪関連で、いっぽう昨日自分が参加したほうはタイトルにもある通り、あえて妖怪に強くフォーカスすることなく、主に氏自身が見聞きしてきた「”台湾の”歴史」と文学、妖怪などとの関連についてのトークがメインでありました。

冒頭の話は、台湾の作家のいわば宿命として、「台湾とは」「台湾における○○とは」という疑問に突き当たった氏自身の感慨から始まり、台湾の時代小説を書こうと志したものの、そこで「台湾の歴史とは」という大きな疑問を抱くにいたった経緯が語られました。

学校教育における歴史の授業の内容や、当時の台湾の時代小説が描いていたものについての説明や感想に続いて、いかにも即物的で面白みのない当時の時代小説にウンザリしていた氏を強く惹きつけたのが、京極夏彦氏の『巷説百物語』だったことが明かされていきます。

フィクションとノンフィクションの垣根や、史実や時代小説の形式といったものを軽々と飛び越えて、闊達に綴られた『巷説百物語』の物語と作風に魅了された氏は、やがて新たな時代小説、歴史小説を開拓していくことになるわけですが、もう一つ、氏の作品の重要な要素である妖怪については、かなり昔から脳裡にあったものの、そうした妖怪小説の創作を試みようとするものの、そもそも台湾における妖怪そのものが体系づけられていないことに思い至る――。

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このあたりは柳田国男や水木しげるといった先達が存在した日本との大きな違いでありますが、ここからの氏の情熱が半端ない。妖怪小説を書くための資料を揃えようと、昔昔の文献や新聞などを片っ端から調べまくって、妖怪に関連するとおぼしき怪異の蒐集を始めるのです。そうして蒐集され、画も添えて刊行されたのが大著『妖怪臺灣:三百年島嶼奇幻誌‧妖鬼神遊卷』であったとのこと。もともとは妖怪小説を執筆するためにと始めた資料蒐集がこうして一冊の本にまとめられてしまったという転倒が面白い。台湾における妖怪ブームの火付け役ともなったこの本は、文字だけではなく、漫画家・張季雅の手になる画も魅力のひとつで、ここでも手の込んだPVを見ることができました。今、ちょっと探したらyoutubeにあがっていたのでリンクを張っておくといたしましょう。

個人的に面白いな、と思ったのは、幼少時代、四合院に住んでいたころ、年長者から様々な怪異譚を耳にしていたことがこうした妖怪に興味を持つきっかけになったとのこと。しかしいざ妖怪を小説に書こうとすると、台湾ではむしろそうした怪異の存在が強く信じられているがゆえに、受け入れる側の拒絶反応があるとか。日本でも実話(系)怪談におけるフィクション云々とか、現実の怪異を「あるもの」として受け入れるかいなかとか、まあ、そういう込み入った話は色々とありますが、これは怪談ジャンキーたる読者や研究家、さらには創作者たちが群れ集うディープな世界でのごくごく限られたお話のはずで、一般読者の中からそうした思いが表出して妖怪への受容を拒んでいるというのは、日本との比較で言えばチと違うかな、――と感じた次第です。

もっともこのあたりの詳しい内容は、おそらく今日のトークでもっと色々な話がされるような気もするのでこのくらいにして、台湾ミステリの視点からの話を書いておくと、昨日も取り上げた『怪物們的迷宮』では、その舞台のモチーフとなった台北を、氏は”暗い、怖い場所”といった負の印象で語っているところが興味深い、――と語った司会の天野氏。台北といえば、日本でいえば東京にあたり、きらびやかで都会的といった雰囲気が一般的な印象であるのに対して、都市のダークサイドを活写してみせた点にこの作品の特異性がある、――確かに頷けるものの、いっぽうで、若いころに楊德昌(エドワード・ヤン)の『恐怖分子』に大変な衝撃を受け、その後も人死メインの物語ばかりである台湾ミステリを読み続けてきた自分としては、一般的な印象とはチと違うかな、と……(爆)。

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それと『怪物們的迷宮』は、京極夏彦氏の百鬼夜行もの(京極道シリーズ)からの影響を受けて書いたとのこと。これは絶対に湊かなえとか芦沢央とかの”アッチ”路線でしょッ!と思っていた自分としてはかなり意外。

それと会場には、東雅夫氏の姿もありました。あとで何敬堯氏のFBを覗いてみたら、この日のトークイベントに東氏が来られることは開場前には知っていたようで、両手がブルブル震えるほど緊張していると綴っておりました(爆)。トークが終わったあと、東氏と立ち話をされていたので、すぐそばで盗み聞きをしていたのですが、そのときに東氏が名前を挙げていたのが日影丈吉。これは自分も是非とも聞いてみたかったことだったのですが、何氏曰く、日影丈吉の作品にふれたことなく、また台湾ではまともな翻訳で出たものがないとか。日影作品に関する論考に眼を通したことはあっても、作品そのものについては未読とのこと。しかしながら『怪物們的迷宮』での珊瑚の産卵とある秘密が重なりを見せる最後のシーンの悪魔的な美しさなど、日影作品の幻想性にも通じるところもあったりするので、これは是非とも氏に日影作品を読んでもらって感想を聞いてみたいなァ、と感じた次第です。

また妖怪に関する怪異の蒐集に関しての話もあって、台湾では日本と違って先駆者がいなかったことから、東氏が何氏を「台湾の柳田国男に!」と絶賛されていたことも印象的でした。いや、実際、構想ウン年という『妖怪臺灣:三百年島嶼奇幻誌‧妖鬼神遊卷』の成果を考えれば、それも決して大袈裟な言葉ではないような気がします。

というわけで、台湾の妖怪ブームに先鞭をつけた何敬堯氏のトークは、自分のようなミステリ読みにとってもなかなか愉しめるイベントでした。また注目すべき台湾の作家が来日されたときには足を運んでみたいと思います。おしまい。

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