犬神の杜 よろず建物因縁帳 / 内藤了

新作を心待ちにしているこのシリーズ。今回も一気読みしました。なんかアマゾンの感想をちらっと覗いてみたら、仙龍と春菜の関係がなかなか進展せずヤキモキしている人がちらほらいたりして、なかなか微笑ましいものがあるのですが、まあ、自分もその一人であります(苦笑)。ともあれ、そういう意味ではやや物足りなさこそ残るものの、小林教授の師匠筋のひとが解明できなかった謎が今回の一件に絡んでいたりと、シリーズもののキャラ的視点から愉しめるところがないわけではありません。

物語は、訳アリな山にトンネルを通すことになったものの、その現場で働く女性事務員が相次いで不審死を遂げる。そこへサニワ体質のヒロイン・春菜に声がかかり、くだんの建築現場に何か「そういう」ものがいないかどうか、一週間ほど現場に出向というかたちで確かめてもらいたいとの依頼が舞い込んでくる。報酬につられてホイホイと現場にやってきた彼女の前に黒い犬が現れ、どうやらその現場には犬神の祟りが関連しているらしく、……という話。

今回は怖さよりもミステリ的な謎解きを強く押し出した展開で、いうなれば春菜の視点からそのおそろしいものの正体が「観察」され、それを仙龍とコーイチ、小林教授のタッグが「推理」していく、――という筋なのですが、山という土地そのものが諸悪の根源と思わせておいて、その背後には宿業に絡め取られた人々の悲哀が隠されていたという、謎の対象となる様態が真相を繙いていく過程で、土地から人へと変容していく中で、このシリーズならではの哀しき人間ドラマが炙り出されていく構成が心憎い。

とくに土地だけではないと明確に結論づけられたあと、犬神を抱えた人物のフーダニットへと物語の筋が転化し、やはりなァ、このひと怪しかったモン、と思っていた人物がまさかのアレだったという真相にはちょっと吃驚しました。サニワ体質の春菜の視点から怪異の現場が描写されているがゆえの仕掛けが冴え渡り、その真相開示が上にも述べた哀しき人間ドラマへと収束していく後半の展開が美しい。

そして今回は、前作で仙龍の宿業とともにすることを決意した春菜の意志の強さがより感じられ、それと同時に仙龍へのツンデレぶりがいよいよ極まった感じがするところもまた美味しい。アマゾンのあらすじ紹介では、壮大な時間軸と空間軸を孕んだ物件をどう処理するのか、――この重要な点についてサラッとネタバレされているのがアレながら、皆でワイガヤをしていくうちに、仙龍がこのアイディアをさらっと口にするところでは思わずおおっ、と唸ってしまいました。「××でも城でも大木でも、曳き屋に曳けないものはない」という台詞も無類の格好良さで、仙龍というキャラクターのイケメンぶりが際だつ今回のお話でありました。

前作に比較すると、怖さよりもより悲哀が際だった一冊ですが、上質の怪談ものとしても強くオススメしたい逸品といえるのではないでしょうか。オススメです。

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