虚構推理短編集 岩永琴子の出現 / 城平 京

数年前に刊行された『虚構推理 鋼人七瀬』の第二弾(のはず)。いかんせんロートルになってから物忘れがひどく、前作における物語の大きな枠組みはボンヤリと覚えているものの、ディテールについてはすっかり忘れてしまっていたので序盤はちょっと戸惑ってしまったものの、物語が進んで行くにつれだんだんとキャラの立ち位置や本作の技巧が思い出されて愉しむことができました。

収録作は、大蛇の棲む山奥の沼に死体を捨てた犯人がつぶやいた言葉の真意をめぐって探偵が抜群の虚構推理を次々と開陳してみせる外連が素晴らしい「ヌシの大蛇は聞いていた」。フと入った鰻屋で男二人がその場にそぐわないヒロイン探偵を見つけてからある隠微な犯罪への推理を巡らせる「うなぎ屋の幸運日」、とある田舎に出現したあやかしの人形によって村が壊滅的な被害を受けるも、その人形の存在理由を虚構推理によってねじ伏せてみせる「電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを」。

ギロチンで首チョンパというコロシの犯人が口にした不可解な言葉の真意を巡って探偵が虚構推理を弄してある人物を追いつめる「ギロチン三四郎」。化け狸たちがつくりだした自販機が、奇しくもあるコロシの犯人のアリバイを成立させてしまった転倒から、虚構推理を繰り出してあるリアル推理を無効化してしまう「幻の自販機」の全五編。

短編集ということもあって、それぞれの事件の構図は極めてシンプルに見えるものの、それを怪異の側から眺めたときに奇妙な謎が出現するという結構が本作のキモで、冒頭を飾る「ヌシの大蛇は聞いていた」では、犯人は明らかながらなぜ犯人は山奥の沼に死体を捨てに行ったのか、という現実的な謎に、大蛇が耳にした犯人のある言葉の真意を巡って、ヒロイン探偵が次々と推理を繰り出していくというもの。一言一言の解釈が推理によって二転三転しながら、事件の構図の外観そのものをもひっくり返していく謎解き――といっても、この場合、決して謎を“解”いているわけではないのですが――が素晴らしい。このやりかただと、いくらでも反転に次ぐ反転を繰り返して多重解決のインフレーションを惹起させることも十二分に可能ながら、短編のコンパクトさを活かして綺麗に着地点を描き出した幕引きもいい。

怪異の存在の側から見聞きした現象を解き明かしていく、――という、リアリズムの視点から怪異を眺めることによって謎を生みだすのとは大きく異なる「謎→推理」の流れが面白く、「ヌシ」と同様の趣向で愉しませてくれるのが、「ギロチン三四郎」でしょうか。こちらもギロチンのバケモノ(?)が犯行直後に耳にした犯人の言動のちぐはぐな点を指摘して、そこから犯人も明らかな事件の背後に見え隠れするある動機を解き明かしていく展開で愉しませてくれます。

個人的に収録作中一番のお気に入りは、「電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを」で、タイトルにもある電撃を発するあやかしの人形の造詣はなんとなーく前作の『虚構推理』における鋼人七瀬を想起させるものの、こちらはピノッキオ物語の背景を借用しながら、そこに絶妙な誤導を凝らして、怪異が出現させるためのメカニズムとその主体が二重三重に隠蔽していた真のハウダニットを解き明かしていく推理が相当にスリリング。この怪異の事件の全容とその裏面を把握しているとおぼしき人物をある種の狂言回しに配しながら、怪異のメカニズムが解き明かされることで、その人物と怪異の主体との繋がりと哀切を描き出した趣向が素晴らしい。

怪異の存在そのものがリアリズムに立脚するべき現実の事件を混乱させてしまうという狙いが見事に決まっている「幻の自販機」もまた、本格ミステリとして眺めるとニヤニヤしたくなってしまう逸品でしょう。犯人も動機も明々白々なのに、その犯人はアリバイに関してのみ奇妙なことをいっているように見える。しかしその奇妙なことには、異界が絡んでい、ある刑事が執拗にその真相究明にこだわっているところから、ヒロイン探偵が虚構推理を構築、――というかデッチあげてみせるのだが、……という話。怪異が肯定される異界の側から真相を読者の前に明示したあとに、”現実的な“真相を積み上げていく過程で、事件が虚ろな反転を繰り返していく後半部の展開がいい。

前作が刊行された当時は、その趣向から本格ミステリかどうかみたいな議論が噴出したように記憶しているのですけど、それもいまは遠い昔の話。もっともいま振り返ってみても、メルカトルものでこうした試みには耐性がついていたはずのミステリ読みの間で、なぜ本作が色々といわれたのかちょっと不明。

ポスト・トゥルースとかいうイマドキのジャーゴンが現実世界で溢れかえっているいま、ようやく時代が本作に追いついた、……といえるのかどうか。ともあれ、そうした難しいことをいちいち持ち出さなくとも、ヒロイン探偵と無敵のカレシの掛け合いも含めた一級品のキャラ小説としても十二分に愉しむことができる逸品といえるのではないでしょうか。オススメです。

虚構推理 鋼人七瀬 / 城平 京

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