ホンの少し前にReader™ Storeでセールをやっていたのを見つけて購入。タイトルから石黒達昌みたいなのをイメージしていたのですが、ちょっと……というか、かなり違いました。”普通に”物語してます。
物語は、生まれてから死ぬまでずっとVRのゴーグルを装着したまま生活している少数民族について語る、――というものなのですが、語り手というよりはこの論文調の書き手の正体が不明なまま、くだんの不可思議なスー族の習俗について淡々と綴られていく構成がいい。そして近未来の物語であることを読者に想像させながら、VR技術の導入による社会的な副作用や現象が、そのまま我々読者のいる現在にも起こっている、――という、その気づきが興味深い。
もう少し長ければ、そうした習俗のディテールを突き詰めて描けたのかもと推察されるものの、このくらいコンパクトにまとめてあるからこそ決してダレることなく、書き手の正体がこのスー族の物語の枠外から明かされるオチが決まっているのカモ、とも思いました。
なお文章からこの生活ぶりは頭の中に思い描くことができたものの、食事やセックスといったことの言及がありながら、排泄なんかはさすがに介添人も嫌がるんじゃないノ、といったあたりはさりげなくスルーされているので、論文を装ったリアリズム小説というよりは完全にファンタジー(このあたりはちょっと前に読了した『人間に向いてない』でも感じたところではありますが、自分が少し前まで愛犬の介護で大変辛い経験をしたので余計にそうした細部が気になってしまったのカモ)。
ともあれ、SF的設定をバンと明かして一気に読者を不思議な物語世界へと引き込んでみせる筆力は相当なもので、個人的にはかなり気に入りました。長編の『ニルヤの島』が文化人類学の知見とSF的奇想を爆発させた傑作とのことなのですが、時間があったら手に取ってみたいな、と思った次第です。
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