千年図書館 / 北山猛邦

期待していた感じとはかなり違っていた一冊。とはいえ期待外れというわけでは決してなく、読後感もステキで満足……ではあるのですが、「ラスト1行まで何がおこるかわからない」「“どんでん返し”ミステリ」を大期待して手に取ると戸惑ってしまうかもしれません。

収録作は、不気味な言い伝えとリアルな犯行に絡めて少女の哀切を語る「見返り谷から呼ぶ声」、生け贄を必要とする村の図書館に隠された秘密「千年図書館」、月の異変に隠された地球侵略に作者らしい奇天烈な密室トリックをブチ込んだ「今夜の月はしましま模様?」、キ印男の着想による奇妙な埋葬とその真意がカタストロフを生む「終末硝子」、曰くアリのピアノ曲を奏でることで発生する怪異に巻き込まれた娘っ子とボーイの感動物語「さかさま少女のためのピアノソナタ」の全五編。

いずれも奇想を物語世界に絡めて作者らしい技巧を堪能できる一冊ながら、どんでん返しとはちょっと違うかなァ、――という感じでありまして、そんななか、冒頭を飾る「見返り谷から呼ぶ声」は、リアルな田舎を舞台として、ある場所に伝わる怪談めいたお話にリアルな犯罪を絡めた一編で、そこに青春物語らしいボーイガールの哀切を雰囲気タップリに盛り上げた謎解き以降の展開が素晴らしい。「振り返ったら死ぬ」と伝えられる谷の秘密に行方不明事件を重ねて、作者らしい物理的なある仕掛けがさらりと添えられているところがミステリらしいといえばミステリらしい一編なのですが、ここではむしろ上にも述べた通り、青春物語として最後の盛りあがりを愛でるのが吉でしょう。

「千年図書館」も、図書館に生け贄を捧げるという奇妙な風習を持つ村のお話で、なぜ図書館に? なぜ生け贄?という当然思いつくであろう疑問を最後の最後にドーン!と明かしてみせる趣向がキモながら、時間軸と空間軸を宙づりにして、ファンタジーかと思われていたこの世界の物語がそのドーン!の真相開示の瞬間、読者のいる”今ここ”へと一気に旋回して度肝を抜かせるビックリ技が冴え渡った一編です。

「今夜の月はしましま模様?」は、月が奇妙なことになるという舞台設定から『虹のジプシー』みたいな感じカナ、なんて期待しているとマンマ『寄生獣』じゃないノ?みたいな展開へと流れていくところから一転、作者らしい奇想溢れる密室事件をブチ込んでみせた怪作。このトリックは確かに宇宙人の侵略という奇想をベースに据えているものの、つい最近読んだ長編にもサラリとつかわれていた仕掛けゆえ、思わずニヤニヤしてしまいました。

収録作のなかで断然好みなのが、後半の二編「終末硝子」と「さかさま少女のためのピアノソナタ」で、「終末硝子」は、世界設定を巧みに利用した奇想が炸裂する一編で、「今夜の月はしましま模様?」の後だからこそ納得できる奇想の用い方が素晴らしい。奇怪な埋葬方法とそれを生みだしたキ印男の思惑が明かされるあたりは、作者の初期長編を彷彿とさせ、かなり好み。

続く「さかさま少女のためのピアノソナタ」では、その曲を弾くとある奇妙な現象が発生する、――という設定に、“あること”をしていた娘っ子が巻き込まれるという展開から、彼女のしていた“あること”を回避しようとするボーイの企みに、現在進行形の演奏シーンをスリリングに描き出した後半が素晴らしい。そしてその企みが明かされたあとの爽快な終幕と、冒頭の「見返り谷から呼ぶ声」とのコントラストも秀逸です。

収録作すべてが「“どんでん返し”ミステリ」というわけではないので、そのあたりを頭に入れておけば、奇想アリ、ファンタジーあり、作者らしい青春物語アリで、なかなかお得感のある一冊といえるのではないでしょうか。あくまで取り扱い注意、ということで。

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