傑作。バンドの背景はまったく不明ながら一聴して吃驚。完全にメジャーの音といってもいいほどで、各曲の完成度はもとよりアルバム一枚としての構成が完璧といっていいほどに素晴らしい。
全13曲収録で、自分の感覚だと前半は初期の遊佐未森(『モザイク』あたりまで)のような、ポップとアイリッシュトラッドとのハイブリッドを彷彿とさせる楽曲で、後半に進むにつれエレクトロニカに加えてイマドキのポップミュージックの風格が前面に出てくる感じ。
1曲目となる“大きな木”の壮麗なオルガンの旋律が奏でる“Symbol”は、このバンドの魅力がすべて詰まったような一曲で、春の日射しを浴びてスキップしているような軽やかな疾走感が心地よい。この軽快感、ちょっと赤い靴の名曲“ヒルニナルレイン”を思い出しました。赤い靴もたしかチェロも交えたチェンバー構成に、R&Bとジャズの作風が際だった、――いうなれば”大人の香り“が引き立つバンドですが、こちらはトラッドにエレクトロニカとポップのフレーバーを絶妙に添えて、若々しさへと振り切った感覚が爽やか。
“sleepless sleep”も“Symbol”に似た作風で、女声の透き通るような歌唱がやはり初期の遊佐未森を感じさせる。ここにちょっと癖のある男声が絡んでくるのですが、やはりこのスキップしたくなるような軽やかな躍動感がこのバンドの持ち味だと思う。このままワルツのリズムに変えたら、これまた初期のZABADAKっぽくなるのではないか(“五つの橋”トカ)。これがまたロートルにはタマらない。
実は結構ドラムが複雑なことをやっていて、リズムに“さりげなく”(ここ重要)こだわるあたりにもトラッドへの指向性が見え隠れします。そんななか、シンプルなギターの旋律が際だつ“Call”もまたしみじみ佳いといえる一曲で、この男声女声の交わりは台湾のCrispy脆樂團っぽいとも感じました。
“塔の街/tale“あたりからキラキラしたエレクトロニカと抜群のポップセンスが前面に出てくるのですが、後半の方がイマドキの若者にはウケるかもしれない。そんななか、“It’s dark outside“はひんやりとしたクールな一曲で、後ろで鳴っているのはGlock.だろうか? 都会的なベースラインとチェンバーの微細な音が響き合う逸品で、トラッドの色を強く感じさせる前半部とはまた違った魅力を放つ。
“羊が眠る頃”は8分近い大作で、Glock.の透き通った音にギター、女声、リズムが重なっていく前半から、男声と女声のユニゾンの歌声が心地よい。ギターの音がとても抑制的なのですが、これはおそらくライブで演ったら“化ける”タイプではないかと邪推(トラッド系のバンドはたいていライブで豹変するのはご存じの通り)。
最後の“居住区/Area”で、ふたたび冒頭の“大きな木”のオルガンの旋律が変奏される構成は完璧といっていいほどで、アルバムとしての完成度は相当に高いです。おそらくこのバンドを聴くのは自分のようなロートルではなく、ヤングかと思うのですが、瑞々しさとトラッド、チェンバー、エレクトロニカといった各ジャンルの魅力をふんだんに盛り込んだ作風には大いなる可能性を感じさせます。少し前に吉祥寺NEPOでライブを演ったのですが、たしか休日のイベントで自分は足を運ぶことができず。この軽快にして爽やかな曲たちがライブでどう豹変するのかちょっと観てみたいという気持ちがあります。またNEPOで演る機会があれば是非、と思わせるバンドのアルバムで超オススメ。
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