ちょっと間が開いてしまいましたが、誰も見ていないからヨシとして……(苦笑)、第六回島田荘司推理小説賞一次選考通過作の紹介の続きです。前回はいま世界の注目を浴びる香港からのミステリ・アイドル、”パフィスたん”こと柏菲思の『強弱』でしたが、今回は今や本賞の常連投稿者ともいえる王稼駿の新作『体殻』を取り上げてみます。王稼駿と言えば、前回投じられた『再見,安息島』はかなり印象的な作品で、妹萌えの日本のミステリオタクにも十二分にアピールできるであろうキャラ造詣や、ある歴史的人物を絡めた島の秘密を交錯させた佳作ながら、その真相が「それを使うと何でもアリ」になってしまうという理由から惜しくも入選を逃してしまった一編でした。
王稼駿といえば、『再見,安息島』のような歴史ミステリはちょっと珍しいという印象で、その作風はやはり悪夢的な情景と奇想を重ねたSFミステリにあり、というのが自分の評価です。実際、『阿爾法的迷宮』などはその典型で、本作『体殻』もまた『阿爾法的迷宮』に近いSFミステリ、――いや、『阿爾法』以上に奇想を核爆発させた怪作に仕上がっています。で、あらすじはというとこんな感じ。
探偵・左庶は二十歳の女性からある奇妙な依頼を受ける。彼女は、自分の父親は本当の父親ではなく、自分はまた女性ではない、男性に違いないというのだ。調査のため彼女の家を訪れた左庶だったが、依頼人だった女性は彼の眼の前で飛び降り自殺をしてしまう。
しかし彼女が部屋に隠していたパスワードから銀行の金庫を探り当てた左庶は、彼女の身の上に隠されたある秘密を知る。彼女の両親は交通事故に遭っており、母親はいまも昏睡状態にあるという。事故当時に乗っていた自動運転車に隠された秘密。そしてさらにその背後に見え隠れするおそるべき陰謀!
21世紀本格を目指してついにSFへと突き抜けてしまった作者の幻想味溢れる物語を刮目せよ! 中国の山田正紀、いまここに再臨!
あくまで個人的な感想というか期待なのですが、作者の王稼駿は無理にミステリに固執せず、SFを書いた方が時流に乗れるような気がします。実際いま中国SFが日本でも大きな注目を浴びていて、とにかく中国の面白そうなものだったら何でも大ヒット間違いなしというこのビック・ウェーブに乗らない手はないのではないか。さらにいえば本作では「萌え」を喚起するペットショップの店員と探偵との甘酸っぱいラヴ・ストーリーもあったりするので、案外この探偵を女性に書き換えて「百合萌え」に改変すれば、大ヒットも間違いナシッ!……などと妄想してしまうのは自分だけでしょうか。以前に直接話をしたときには好きな作家は天童荒太と語っていましたが、作家としての資質はむしろSFに近いと確信しています。
『阿爾法的迷宮』の悪夢的な筋運びは山田正紀の『サイコトパス』や『幻象機械』などを彷彿とさせるし、本作では幻想の強度はそれほどではないものの、その真相の強引さとそこに用いられた最先端技術は完全にSF。つい最近、あるネットニュースで本作に用いられた科学技術が実用に近づいたという記事を見かけたこともあって、この作品に描かれた物語が近い将来現実のものになるのではないか――という怖さもあり、ミステリよりはSFとして売り出した方が絶対に確実に大ヒットすると確信している次第です。おそらく大陸か台湾のいずれかの出版社から刊行されるかと思うのですが、日本で本作を翻訳出版する際には大ヒットを狙うため、是非とも作者には「探偵は女性に」「百合萌えを全面的に押し出して」とアドバイスをしていただければと期待しています。
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