異邦人 / 半村良

マイナー過ぎて今まで手に取ることもなく素通りしていた一冊。往年の勢いこそないものの、そこはかとなく枯れた感じがあって読了したあとの心地よさは捨てがたい。

物語は、選挙違反で逃亡生活を続けている語り手が、ヒョンなことからとある新興都市に身を潜めることを決意。しかし街では次第に妙なことが起こり始めて、――という話。前半部に語り手の視点から見た新興都市の様子が次第に歪んでいく展開が秀逸で、そもそも語り手が選挙違反で逃亡中というかなり特殊な立ち位置ゆえ、その違和感を読者に気取られないよう、周到な描き方がされているところが作者らしい。

やがてその違和感の正体が読者の目にも明かされていくなかで、唐突にSFネタがブチこまれているところは外連を効かせていると肯定的に見ることも可能ながら、そこから物語が一気にトンデモない方向へと転がっていくところはかなりの力業。本作ではトンデモないことがいよいよ発生したあとの展開がどうにもB級っぽく、鬼が出てきたりといった”ひばり風”の趣向にはかなり意見が分かれるところカモしれません。

これが『邪心世界』あたりであれば、異世界の背景に異国の神話が重ねられ説得力が増していたところが、ここでは非常に曖昧不定型な『神』ならぬ何かというところに落とし込まれたまま、読者は語り手の視点とともに翻弄されるしかありません。

語り手を支える恋人と最後はハッピーエンドになるものの、異世界から日常へ帰還する幕引きの見せ方は『邪心世界』そのマンマ。このあたりも過去作のサンプリングめいていて、やや辛い点をつけてしまいたくなるところかもしれません。

作者の作品はまだマッタク読んだことがないというビギナーにはまったくおすすめできませんが、ある程度代表作の長編を読了してしまったという方で、時間を持て余しているのであれば、手に取ってみれば案外愉しめるカモしれません。