溺れる女 / 大石 圭

大石ワールドに登場するバカ女は数あれど、本作のヒロインはその中でも群を抜いてもぶっちぎり。とにかく読んでいる間の苛々は相当なもので、個人的にはなかなかの苦行本でした。

物語は、とある娼婦がホテルの一室でサド男からトンデモない仕打ちを受けているシーンから始まるのですが、ほどなくしてこの女性が本作のヒロインであることが明らかになります。彼女はチビデブのオタ男と婚約真っ最中ながら、心は愉しからずといった雰囲気。そんな浮かないデートで時間を潰しているときに、折悪しくかつての恋人と道端でばったり出会ってしまい――という話。

そもそもブ男と婚約しているのにどうして娼婦を? ――と、読者であれば当然の疑問が頭に浮かぶものの、その謎が解けるのは中盤以降。冒頭のプロローグはいったい過去現在未来のいつなのかというところを一つの謎として物語は緩慢に進んでいきます。

で、デートを終えて人心地がついたところで元カレからラインでメッセージが届き……って、そもそも何で婚約が決まっているのに男のラインをそのままにしておくんだよッ、とここでも苛々してくるわけですが、どうやらこのヒロイン、婚約者が生理的に受け付けられないらしく、元カレとのかつての燃えたぎるような性行為を思い浮かべて悶々とした挙げ句、ついに男と会ってしまう。この元カレというのが典型的なダメ男で、こいつとヒロインが知り合った大学時代まで物語は遡って二人の過去が明かされていきます。

かつては真面目で成績優秀で地味な眼鏡っ子だったヒロインが摂食障害で大変なことになっている現状のすべてはこの元カレのせいと彼女自身も判っていながら、結局元カレとよりを戻して奈落へと堕ちていく展開はもう、とても見ちゃいられない。ここに大石ワールドでは定番の肛虐口淫犬の首輪に飲尿行為とスタンダードなド変態プレイも添えてミッチリと描かれるエロ・シーンは相当なもの。もっとも、定番のサンプリングでキメているのでこのあたりはさらっと流したとしても、早くヒロインがどうなるのか知りたいんダイというせっかちな読者も没問題。

本作のラストは絶望的なハッピーエンドにはほど遠く、むしろ登場人物たちこれすべてが奈落落ちというパーフェクト・アンハッピーな幕引きは爽やかなバッド・エンドよりタチが悪い。個人的には激推しどころか『アンダー・ユア・ベッド』から『蜘蛛と蝶』へと連なる作者ならではの人間の業の悲哀を描き出した作風にはほど遠いため、オススメはできかねる一冊ながら、エロ小説としての純度はなかなかに高く、作者の作品に”そちら”の趣向を求めるドSの読者であれば、地味系インテリ女の闇堕ちという展開はかなり愉しめるカモしれません。

蜘蛛と蝶 / 大石 圭