先日取り上げた『euphoria』に続く神戸の異才、seratakeijiの作品。これは氏自身のbandcampアカウントではなく、AMARTレーベルからのリリース。なのでミキシングの段階で、若干Quadrupole Quartet氏の手が入っているのかな、と思いながらも全体を貫くトーンと作風は『euphoria』にも通じる素晴らしさ。
冒頭の“repetition”は微細なノイズとゆったりとした旋律とのせめぎあいが心地よい一曲。旋律が優ってノイズが吹き払われる後半の着地点がとてもいい。
“sandstorm“や“shell”など、seratakeijiの作品にはベルの音の印象的なものが多いような気がします。“border”もそうした作風の一曲で、雨音なのか炎の爆ぜる音なのか、あるいは人工的なものなのか――そうしたノイズへ抗うように叩かれるベルの音が幽玄な音像を描き出す。
続いてあやかしの”border”から”gradually“へと流れる展開も秀逸で、薄明から眩い光に充たされていくかのような構成にノイズの気配はなく音は鮮明。そしてこの前2曲の対比が印象的。
この愉悦の“gradually”から一気にノイズが音場を支配する“ambiguous boundaries”の奈落へと反転する構成の妙。不気味な脈動とともにふと訪れる静寂からふたたび夢見心地の“alteration”へと緩急――緩兇とでもいうべき後半の曲の配置がなんともいえない。
しかし面白いのがこのアルバム、やや音を小さくして流してみると、曲中のノイズが生活音と混ざり合って、ずっと聴いていられるほどに心地よい環境音楽へと化けてしまう。スピーカーとヘッドフォンの両方で聴いてみましたが、個人的に本作はスピーカーで流しっぱなしにして聴くのが好み。
抽象性の極北を行く『euphoria』からやや変化したように感じられる本作のお気に入りは、『euphoria』に顕著だった”人の気配のしない”音世界をまたもや体現してみせた”border”と、“sleeep”にも通じる雄大な“alteration”でしょうか。2020年7月のいまでもこのアルバムはたまに手にとって聴くほどのお気に入りで、氏の作品のなかでは一番好みかも知れません。オススメです。