どこの家にも怖いものはいる / 三津田信三

このシリーズはすでに三冊ゲットしているのですが、ずっと積読状態でした。ようやく取りかかってあっという間に読了。あらすじは、作者である三津田氏がある編集者と知り合い、彼からとある家に関する怪談話を聞くことになる。それらに奇妙な類似点があることに気がついた二人はその曰くを辿っていくうち、おそるべき事実が――という話。

家にまつわる怪異の因縁を突き詰めていくとその「起点」となる真相に辿り着く――という物語は、小野不由美の名作『残穢』を彷彿とさせる質感で、かなり怖い、というより気持ちワルイ。

刀城言耶ものに見られるすべての事象がロジックによって繙かれたあとにぞわっと立ちのぼる「割り切れなさ」よりは、何かあるようなのだけど、それが何か判然としない「気持ち悪さ」が印象的で、この気持ち悪さの所以をどうにかして知りたい、――という本格ミステリ読みなら抱くであろう欲望を原動力にして、物語はいくつかの怪談話とともに進んでいきます。

作中でも言及されている「ミッシング・リンク」――本当の意味とはやや趣を異にするものの、いくつかの怪談話に見られる共通点を繋げていっても、いっこうにはっきりしない怪談話の背後に見える「何か」がますます薄気味悪さを増長させ、最後には存外にあっさりと作者じしんが、これまでのロジックを支えていた作中の記述の誤りを指摘しつつ、怪異の本丸へと切り込んでいく後半は相当にスリリング。それでいて、あたかも語り手自身が怪異の背後に控えてる本丸を避けるかのように、さらっと書き流しているところが余計に読む者にいいようのない恐怖を喚起させる趣向が素晴らしい。作者の本格ミステリとは異なるロジックの使い方に注目でしょうか。

実際にこの怪異に言及した者のもとに怪異が現れる――というメタレベルの脅しは、いい歳をした大人であれば没問題ではあるものの、お子様が読んだら失禁もの。ロジックの用い方から、本格ミステリとはコインの裏表のように感じられる本作。作者の本格ミステリにハマっている人だからこその「真相を知りたい」という欲望を気取られて怪異に取り込まれるという趣向を愉しめる人にこそオススメしたいと思います。