非実在探偵小説研究会19号 / 非実在探偵小説研究会

ちょっと縁あって、下手をすると十年近くご無沙汰していたエアミス研の同人誌を久しぶりにゲット。今日はリーマン仕事の合間に別のミステリを読んでいたのですが、郵送されてきた「19号」を手に取り、最初の「ミッシングリンク・ミッシング」を読み始めたら思いのほか面白く、頁をめくる手が止まらなくなってしまったので、結局、お題競作となる「切断」と「ショート・ショート」を読了してしまったので感想を簡単に。

企画のお題競作「切断」は、皆が集って巷を賑わせている切断師の犯行にほの見えるミッシング・リングを辿るうち、意外な形でフーダニットが完結する構成が鮮やかな神崎蒼夜「ミッシングリンク・ミッシング」、とある教団に祀られたある像の首が盗まれたことから、信者の語り手が涅槃で真相を幻視する田中大牙「≪黒の少女像≫」、奇妙な切断死体を散歩中に見つけた家族が想像の斜め上をいく奇天烈な真相を喝破する傑作、佐倉丸春「家族は切断について考えてみた」、作家となった先生の館を訪れた元生徒たちが首切り殺人に巻き込まれる期待通りの展開に、重層化された真相開示の外連を見せる麻里邑圭人「ギロチン館の殺人鬼」。

企画3のショートショートは、”あるもの”を追いかけてタイトル通りに「時をかける」人物の行動の背後に隠された名作を最後に明かした幕引きが素晴らしい佐倉丸春「時をかける壱与」、これもまたタイトルに添えられた”あるもの”がメタレベルで引きつった嘲笑を引き起こす仕掛けが秀逸な麻里邑圭人「白銀の殺意(仮)」、収録ショートショートのなかではもっともストレートな本格ミステリの技巧を取り入れて、殺意の交錯をねじくれた構図へと変転させる皐月あざみ「三つの殺意」、ビターな青春を回顧する淡々とした筆致にタイトルの歪みを見せる紫藤はるか「小説家になりたかった僕と彼女は」を収録。

個人的にピカ一だったのは、佐倉丸春「家族は切断について考えてみた」で、これは数十年後に奇想ミステリのアンソロジーが組まれたときには収録されるべき”名作”といえるのではないかというほどの仕上がりで、堪能しました。ちょっと狂った感じの家族が散歩をしている最中に、奇妙な切断死体を見つけて、――という話なのですが、なぜこんな奇妙な死体がこんな場所に、という謎に家族がワイガヤで挑むものの、奇想が炸裂したトリックと構図も秀逸なら、家族の一員が死体に相対してしでかした”あること”が予想外の現象を引き起こすというオチも含めて、いっさいの無駄なく綺麗にまとまった傑作。

同じ作者のショート・ショート「時をかける壱与」も、タイトルにある壱与の行動とモチーフからある名作をすぐに思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。そのタイトルを最後の一文で明かしてみせるのはショート・ショートのオチとしては期待通りながら、個人的に惹かれたのはこの短文に壮大に引き延ばされた時間軸を圧縮してみせた構成でしょうか。これ、うまく料理して長編にすれば、御大の提唱する21世紀本格の逸品にもなりえたのではないか。『Classical Fantasy Within』の”外伝”に紛れ込んでいてもおかしくないほど”ネタ”がいい。

神崎蒼夜「ミッシングリンク・ミッシング」はタイトル通りに、切断師なる殺人鬼の所業に隠されたミッシング・リンクをワイガヤで探り出すという趣向ながら、捨てネタに見えるいくつかの推理が、最後の犯行によって断片的な繋がりを見せていき、そこからロジックの展開そのものに隠された伏線を回収してフーダニットに変転する手さばきが鮮やか。このあたりはちょっと泡坂妻夫の名作長編に似ているカモしれない。

田中大牙「≪黒の少女像≫」は、物語そのもの以上に、まず覇王ネタがまだしぶとく生きていたことに驚愕(爆)。像の首が切断されたホワイを推理していくものですが、語り手の涅槃推理では歯が立たず、そこに突然現れた”探偵”の投げっぱなし的な真相の馬鹿馬鹿しさにのけぞってしまう。教団・教祖の思惑が明かされたあと、置き去りにされた語り手の無常と「敦盛」の「夢幻の如くなり」を重ねた幕引きをダメ押しでブチ込んだ趣向がタマらない。

麻里邑圭人「ギロチン館の殺人鬼」は、作家となった先生の館に集った教え子が、世間を賑わせている首切り魔に襲われて、――という話。作者らしい幻想風味が濃密なプロローグから仕掛けは始まってい、存外にアッサリと犯人が明かされるものの、真相開示のクライマックスはここから。最近作者の短編集『名探偵 由比藤司』でも感じたことですが、二段構えの真相開示で見せる外連が完全に作者の優れた持ち味となっていることが感じられます。

これと違ってタイトルに妙味を添えたショート・ショートの「白銀の殺意(仮)」は、あっさりと明かされる真相にメタレベルの仕掛けを組み込んで、いきなり物語をトンデモない方向へとブン投げてみせた逸品。「時をかける壱与」もそうでしたが、やはり最後の一文で着地したショート・ショートは美しい。

最近ブログのアクセス解析を見てみると、思いのほかモバイルからのアクセスが多いので、昔と違ってなるべく短くすませるように努めているのですが、面白い作品に出会ってしまうとついついダラダラと語ってしまう(爆)。一応、本作のほか、BOOTHで購入できる「18号」と「15号」もゲットしたので、また機会があったら取り上げてみるつもりです。