カンブリア 邪眼の章 警視庁「背理犯罪」捜査係 / 河合莞爾

傑作を”濫発”している作者の新シリーズ。あらすじは、とあるアパートで若い女性が心臓発作で死亡するも、その死に疑問を持った刑事と相棒が捜査を続けるうち、階下の住人の不審な振る舞いに疑問を持つ。やがてその男は透視や手を触れることなく心臓を鷲摑みして殺害する能力の持ち主であることが発覚し、――という話。

タイトルにある「背理犯罪」の「背理」とは簡単にいえば超能力。もっともここに言う超能力には縛りがあり、これがミステリとしてうまく作用しているところが秀逸です。超能力があるかどうか疑問に思っていた主人公の刑事が「背理」能力を持つものと偶然出会い、そこからイッキに容疑者を捕まえて実際にその能力をブチまけさせ、さらには裁判へと突き進み、――という性急な展開ながら、裁判では背理能力に関して踏み込んだ対決シーンが描かれてい、超能力なんてありえないけど、ありそうというリアリティで盛り上げていく構成が素晴らしい。

作者の小説に特徴的なかなり輪郭のハッキリしたキャラ立ちも見事で、主人公の刑事にその相棒、女検事に監察医と、これからの活躍を大いに期待できる面々にくわえて、過去の事件と主人公が出会った善人とおぼしき背理能力の持ち主の曰くなど、シリーズを進めていくうちに明らかにされていきそうな設定も盤石で、いわば序章とでもいうべき本作から今後どのような物語が描かれていくのか期待大。

ミステリ的なロジックなどは希薄ですが、裁判に至るまでの、背理能力の持ち主を法廷に引きずり出すかのプロセスや、法廷内での弁護士の戦略が功を奏して刑事たちが大ピンチとなるシーンから一気にどんでん返しへと突き進む外連など、作者のエンタメ魂がイッパイに感じられるところも見所でしょうか。

麻見和史のシリーズものなどと同様、うまくいけばドラマ化されて大ヒットしないかなァ、……なんて期待してしまう本作。作者の作品を愉しんできた読者であればミステリとしての仕掛けとロジックは薄味なれど十二分に満足できる仕上がりの一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。