凸凹 / 森本侑樹野

ファーストアルバムにして名作。昨年ライブを観てからずっと心待ちにしていた森本侑樹野のファーストアルバムがついにリリースされました。ジャズ、昭和歌謡、プログレ、ポップスと様々なジャンルの境界を超えて展開される楽曲群のオリジナリティはもちろんのこと、弾き語りでしか聴くことのできなかった彼女の音楽の”完成形”を体験できて大満足。

はじめて彼女のライブを観たときには、佐井好子の情念のにおいたつ昭和歌謡と大野雄二的なジャズ要素のミクスチャーという感想だったのですが、今回、一枚を通して聴いてみると、よりジャズの要素が際だっている印象でしょうか。

最近MVも公開された冒頭の”君をのせない”は、クライマックス直前の高揚感が畳みかけるように続く構成が素晴らしい名曲。ライブではより明瞭に聴くこともできる力強い重低音のピアノが盛りあがりをみせる中盤の転調は、Renaissanceを彷彿とさせる仕上がりで、これにはロートルのプログレマニアも大満足できるのではないでしょうか。この曲をはじめて聴いたときの印象は、――”Song Of Scheherazade”を強制圧縮してアップテンポにしたような』という感じだったのですが、何度聴いても飽きないドラマチックな展開が素晴らしい。

Renaissanceといえば、アルバムの最後を飾る”日照雨に羊”――これはライブで最後に演奏される定番曲。ここではゴリッゴリの低音ベースに注目で、プロデューサが意識しているのかは不明ながら、この軽妙なピアノに敢えてゴリッゴリな音を合わせてみせた興趣が心憎い。

ライブではピアノだった”花は散り”のイントロで聴かれるベースや、”飛んで火にいる夏の虫”の途中で挿入されるオルガン、”亜空間の森でワルツを”のリズムと管楽器のスパイス、さらにはスィングを徹頭徹尾堪能できる”20日後の私”、”流れ星の願い”の流れるようなピアノなど、――ライブの弾き語りでは見えていなかった彼女の持つジャズの深い素養を知ることができたのも収穫のひとつ。

バンド編成でライブを演ったらどんな凄いものになるかと想像しながら聴いて観るのも一興でしょう。ここ最近はあまり歌ものを購入してはいないのですが、太田ひな『Between The Sheets』と並んで今イチオシしたいアルバムです。超オススメ。