Another 2001 / 綾辻 行人

偏愛。刊行前から「長い長い凄く長い」という話題で持ちきりだった本作。電子版で読んだ自分にとってはどれほどの「鈍器」かもイメージできず、作者の読みやすい文体とも相まって気がついたら読了してました(爆)。

物語は『Another』の三年後、盤石の”対策”を施していたものの、ふたたび「災厄」がはじまり、語り手のボーイが巻き込まれてしまう。果たして紛れ込んでいた死者は誰なのか、そしてこの「災厄」を止める方法はあるのか、――という話。

『Another』を読んだのは2009年。もうずっと昔のことなので、登場人物の詳細についてはあらかた忘れてしまったものの、「災厄」のメカニズムとフーダニットの仕掛けについては結構ハッキリと記憶していたのが幸いしてか、後半に大爆発する「災厄」のメカニズムについても存外にあっさりと見抜くことができてしまいました。本格ミステリとして見た『Another』は、フーダニットの端緒となる容疑者リストにある企みを入れ込むことで、死者の正体を読者から隠し仰せてしまった手法が際だつ大傑作でしたが、本作でもそのベクトルは変わらず。

飄々とした語り手の「視点」から物語を読み進めていくと感じざるを得ない奇妙な感覚。これを明快な伏線として読者の前に開示してしまったことで、フーダニットとしての強度は希釈されているものの、本作は単純な「犯人捜し」の物語では終わりません。実際にフーダニットとして見れば、前半における容疑者リストに企みを凝らした技法は『Another』のベクトルを踏襲しているに過ぎません。もちろんこのあたりのイージーさはこの後の展開に隠されたおどろきを読者に気取らせないための周到な戦略に違いなく、中盤を過ぎたところで明らかにされる死者の存在と「災厄」の停止方法を昂じたあとにやってくる奇妙な現象こそが本作のキモ。

この奇妙な現象をはじめは「災厄」ではないと退けていた登場人物たちが疑心暗鬼に襲われたあげく、いよいよ本丸ともいえる超弩級の不幸とその原因について、改竄された記憶をたぐり寄せながら推理を巡らせていく後半の展開が素晴らしい。

この後半の「災厄」については、あらすじにもハッキリと書かれている「あること」が大きく絡んでいるのですが、前半部に説明されるこの「あること」について、「これは……マズいんじゃないかなァ」と思ったのですが、その予感は大的中(爆)。実際、この真相は同時にこの「実験」によって、今少し「災厄」のメカニズムについて踏み込んだことができたわけだから「〈夜見山現象〉史上最凶の〈災厄〉」も、まあ結果論だけどトントンかな、などと不遜なことを考えてしまったのはナイショです。

同時に本作では「災厄」が記憶を改竄する現象についてもかなり明らかにされているのですが、この仕組みによって、「災厄」の抑止を実行した人物の内心を痛烈に描き出した趣向が鮮烈で、この体験を経た主要登場人物たちが、続編でどのような人間ドラマを紡ぎ出していくのかが気になるところです。

「災厄」のメカニズムによって”容易”に記憶を改竄される渦中の人物たちとは一線を画する「能力」を手に入れたともいえる彼らが、続編でその「能力」を行使して「探偵」としての謎解きをしていくのか。また「災厄」のメカニズムをどのように駆使して新たな物語は書かれるのか。「災厄」を生み出すこの「世界」の真相はどこまで明らかにされるのか。「災厄」を生み出す世界は意志を持っているのか、『霧越邸』と比較して、あるいは――と作者の構想をよそに、妄想をたくましくして続編のありようを思い描いてみるのも一興でしょう。

『Another』を読んでから本作を手に取らないと絶対ダメッ!という意見も見かけましたが、手探りで「災厄」を生み出す世界観を理解する必要があった『Another』に比較すると、本作はその”実例”の宝庫ともいえるわけで、「災厄」の全体像を把握したのち、ここから登場人物たちが現在の境遇にいたったいきさつを知るために『Another』を手に取ってみるというのもアリかなあと、個人的には感じました。自分はもうできないのでアレなのですが、これだと見崎鳴に対する印象は相当変わるような気がします(作者推奨かは不明)。

本年必読の一冊ともいえる本作、ファンはもちろんのこと、話題作ということでまずは手に取り、ミステリを超え、ホラーをも超えた作者の物語の世界観に酔いしれるのに格好の一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。