薄気味悪い怪談話を連作ふうにまとめた構成によって、読み手を襲う怪異を引き起こす一冊で、堪能しました。その趣向は最近読了した「幽霊屋敷」シリーズにも通じるものながら、個人的には不気味さ、気持ち悪さは本作の方が優っているかナ、という印象です。
収録作は、謎ルールに従って山奥の不気味屋敷におこもりする少年を”あるもの”が襲う「お籠りの家」、悪魔少年の描いた絵が引き起こす災厄「予告画」、新興宗教の不気味な施設で夜警仕事を請け負った男が体験する、得たいの知れない怪異「某施設の夜警」、祖母に請われて訪れた屋敷で解放してしまった”あるもの”につけまわされる女性の恐怖「よびにくるもの」、男に呼ばれて訪れた語り手の僕が聞いた不気味体験が四編の怪談を連関させる「逢魔宿り」の全五編。
それぞれの怪談語りに、得体の知れない”あるもの”や怪異が登場し、その背景を語り手である作家の僕が解き明かしてみせる、――という趣向ながら、今回は謎解き以上に怪談本体が薄気味悪く、怪談噺としてはかなりツボでした。冒頭の「お籠りの家」は、親に連れられて山奥の妙な屋敷でタイトル通りのお籠もりを強いられる少年の語なのですが、一応、過去の記憶を辿ってその体験をした男から聞いた話、――ということで、語り手の無事は約束されているところが救いながら、ルールを破ってしまった少年が次第次第に不気味なものに包囲されていく緊迫感がとてもイイ。
「予告画」は、事故や人死にの前にその災厄を予告するような絵を描いていた少年にまつわる怪談で、件の予告画と事故や人死にの関連を知ってしまった先生の視点から語られていきます。いよいよその怪異は先生の身に及ぶにいたって、――という展開が、僕による謎解きの段階で変異して、ホワイダニットを明かしてみせる本格ミステリ的な構成が素晴らしい。
「某施設の夜警」は、個人的に幽霊なのか、それとも何かの現象なのか判然としない怪異の様態が不気味な怪談で、個人的には一番イヤーな感じのする一編。作家志望の男が軽々に請け負った夜警の仕事で、とある新興宗教の施設の見回りをすることになったのだが、という話。現代芸術っぽい訳の分からないオブジェに埋め尽くされた宗教施設の描写がキモチ悪く、そこに現れる怪異の幽霊といえば幽霊かもしれないし、それでいて、もしかするとそこに現れたソレは案外現実的な事件が背景にあるのカモ、……と妄想ができてしまう味付けが怖気を誘う。このワケのわからなさは、ちょっと『怪談新耳袋』の名作「山の牧場」に通じるかもしれない。
「よびにくるもの」の怖さは、得体の知れないものにつきまとわれるという点では、「お籠りの家」に通じるものながら、こちらは時間軸が引き延ばされ数世代にわたってつきまとわれる点、強度が高い。果たして女性が訪れた屋敷は本当にあったのか、という点まで疑い出すとキリがない。
そして表題作ともなっている「逢魔宿り」は、今までの四話をひとまとめにして怪異の落とし前をつけてみせる一編で、怪談話を無理矢理聞かされてしまう、というのがかなり怖い。もちろんその家族が語ってみせる怪談の内容そのものにも、前の四話を想起させるモチーフが巧みに鏤めてあって十分に怖いのですが、怪異にロックオンされて聴き手を強要されたあげく、災厄を被ることになるというのが何とも気持ちワルイ。
ぼんやりと漂っていた怪談語りに小説的な構成を施し一冊の本としたことで、その怪異を「封印」してみせた趣向は「幽霊屋敷」シリーズをはじめとする作者の十八番。
余談ですが、「逢魔宿り」には、以前に感想を記した『筷:怪談競演奇物語』についての言及があり、今回のコロナ禍で台湾ブックフェアが中止となったことから、三津田氏の訪台も叶わなかったことがさらっと明かされているあたりが妙にリアル。
ただ怖いだけではなく、作者ならではの不気味さ、割り切れなさ、気持ち悪さを堪能するには好適ともいえる一冊ではないでしょうか。オススメです。