傑作。作者の作品ではもっとも好みかもしれません。あらすじの大枠としては名探偵が、地獄から甦った犯罪史にも名を残す希代の殺人鬼を見つけ出して地獄に戻すという話。
名探偵じしんも最初の事件で殺されてご臨終となるものの、仏様に召喚された名探偵がその肉体に入って大復活を遂げる、――とこのあたりの奇天烈さは作者の真骨頂。こうしたオカルト的味付けに関してはあまり深く考えずに読み進めていくと、事件こそ微妙に変えてあるものの、読者であれば誰もが知っているであろう昭和の大事件を模倣した犯行が次々と勃発。
もっとも舞台が昭和の事件とはまったく違って、クラブなどいかにも現代らしい犯行現場に置き換えられているところが秀逸で、ここに誤導を凝らして読者の先読みをひっくり返してみせる見せ方が素晴らしい。作者らしいといえば作者らしい、ある意味くどすぎるロジックもシッカリと披露して、最後にさらっと事件の構図を反転してみせる趣向が際だってい、とくに「農業コーラ事件」はこの仕掛けが見事にハマった傑作でしょう。
物語が進むにつれ、甦った殺人犯がこの世でできることが明かされていくのですが、この設定がフーダニットをより複雑にしており、甦った名探偵と希代の殺人犯との最終決戦ともいえる「津ヶ山事件」ではより混沌の様相を呈した事件の様態から、丁寧なロジックで凶器の出所から犯人の行動を細やかに解き明かしていく推理の流れが鮮やか。
そして冒頭の事件でしくじったワトソンに対して瀕死の探偵が「お前の推理だ、お前が責任を持て」と言って送り出すシーンが美しい。ここから最後の最期でタイトルの真意が明かされる趣向も鮮やかで、作者の持ち味である特殊設定とイカれた登場人物の行動をまぜこぜにしながら明瞭なロジックで構図の反転を引き出していく物語全体の構成も素晴らしい。作者の作品はいずれも奇天烈に過ぎてマトモな人であればかなり戸惑うことも請け合いながら、本作は作者の個性的に過ぎる持ち味すべてが感動をも盛り込んだ物語へと昇華された希有な一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。