『よろず建物因縁帳』シリーズの作者の手になる一冊。テレビドラマ化もされたらしく『よろず』よりこちらの方が作者の代表シリーズ的な立ち位置にあるものとなりますが、ヒロインの造形や怪異をほのめかしつつリアルに立脚した意想外な真相など、『よろず』よりもミステリにぐっと近づけた印象です。
物語は、かつて凶悪犯罪を犯したワルたちがエクストリームな方法で自殺する事件が続発。過去の猟奇犯罪を辿るうち、ヒロインは犯人たちがあるクリニックでセラピーを受けていたことを知り、――という話。
ノッケから幼児のおぞましい磔死体がアパートの一室で見つかり、――というプロローグのシーンから仕掛けはさりげなく発動していて、この現場に居合わせた人物が“どちら”側に属するのか明らかにされないまま、死刑が確定したムショ暮らしの男までがトンデモない方法で自殺を敢行するに至って、幽霊だの祟りのだのいった怪異路線は排除されてしまいます。そこからは、いったいどうすればこんな方法で自殺できるのか、といったハウダニットへと焦点を絞った捜査が進んでいきます。
あるクリニックが怪しい、というところまでは突き止めたものの、そのやり方がいっこうに不明なまま、捜査する側の一人が猟奇死体となって発見され、最後はヒロインまでが絶体絶命の危機に陥るというサスペンスフルな後半部の展開は期待通り。
『よろず』のような死者の情念や哀切をすくい取る物語ではないとはいえ、「犯人」側の所業に加担していたある人物のトラウマを添えて、次なる物語を予感させる幕引きなど、この時点でシリーズ化を大いに意識したクセのある登場人物の設定が面白い。
『よろず』に比較すると自分の趣味嗜好からはやや離れた物語ながら、マッドサイエンティストのおそるべき発想と猟奇殺人を組み合わせた趣向など、B級ホラーの風格を主張する物語でありつつも、作者ならではの端正な筆致で描かれているところが素晴らしい。また長野出身の作者らしくヒロインが八幡屋礒五郎ラブなところや、山形出身の死刑囚が芋煮の味付けに一家言あったりと、ローカルネタも微笑ましい。
ドラマではヒロインの比奈子を波瑠が演じているのはチと意外ではありましたが、次作からは彼女のイメージで読み進めていこうと思います。