櫻井翔・広瀬すず主演の連続テレビドラマで、「ミステリ界気鋭の作家たちが脚本協力した本格ミステリドラマシリーズ」の第一弾。ドラマは未見で、予告編っぽい映像でチラっと眼にした程度なのですが、いかにもテレビドラマらしい筋立てでありながら、しっかりと本格ミステリとしての趣向と仕掛けを凝らした作風で堪能しました。
収録作は、磯子のドンファンなる俗物の大富豪が誕生日パーティーを催した夜に殺人事件が発生、現場に残された奇妙なダイイングメッセージの改変を謎に据えた「天才探偵、現る!」、世間を震撼させる爆弾魔が遊園地に仕掛けた爆弾を巡って、意想外のフーダニットを凝らした「美女と爆弾と遊園地」の二編。
「天才探偵」は、遺産を狙う女たちにドンファンが提示した謎解きに、ダイイングメッセージの改変の謎を添えたダブル仕立てで、謎解きの方は登場人物たちの名前から、何ともなくコレがヒントなんじゃないか……と思っていたら案の定というものながら、ダイイングメッセージが複数人の手にってアレコレされたものだったという事実が発覚し、この二つから犯人のドンファン殺害へと至る行動プロセスを絞り込んでいくロジックが秀逸です。
一応、探偵は男の方、ということになっているものの、天才たる能力を発動させるのは、もっぱら広瀬すず演じる(だと思う)娘っ子の方で、『空間没入』なる技法によって、頭をフル回転させるシーンに加えて、「アンナ、入ります」という決め台詞(?)まで用意して、映像映えする盛りあがりを見せるところも期待通り。男の推理がいちいち脱線するところへ、アンナがしきりに軌道修正を試みるコメディシーンなど、すずでシッカリ脳内再生できるほどの描写も含めてなかなか愉しめる一編に仕上がっています。
続く「美女と爆弾と遊園地」は、おそらくテレビでチラっと見かけたであろう一編で、遊園地に遊びに来たアンナたちが爆弾騒動に巻き込まれてしまうというお話。くだんの爆弾魔にしてはどうにも犯行の様態がいつもと違うという違和感から、爆弾魔の真の目的と意想外な真犯人が明かされていく結構で、ドラマ映えするコメディシーンのそこここに、真犯人を特定しえる伏線がシッカリと施されてい、それを丁寧なロジックによって回収していくところが素晴らしい。
事件は解決したものの、一話からさりげなく登場するネメシスを付け狙う人物の正体は判らないまま、続く、となっているので、この後の展開が気になるところ。
作者らしいロジックと伏線回収の妙をタップリ堪能できる一冊であるとともに、探偵事務所と登場人物たちの曰くを、さりげない謎として次回に繋げる構成もまた見事。一応、3までは積読してあるので、また時間ができたら続きを読み進めていきたいと思います。