蘭子が帰還してラビリンスとの最後の戦いッ!とあれば、超弩級の人死にと超絶トリックの大盤振る舞いのフルコースを期待してしまうファンが大勢ではないかと推察されるものの……って、ここまで書いて本作のアマゾンのレビューをチラ見したら、散々な言われようで大苦笑。うーん……しかし自分は色々と愉しめてしまいました。ヤバイです(爆)。
物語は、何をやっても駄目人間なボーイが「貴方の不要な命を高価買い取りします」という怪しい文句につられて、とある犯罪計画の片棒を担ぐことに。金持ちの財産をふんだくって、あわよくば隠し財宝までモノにしてやろうという壮大な計画にムフムフと含み笑いが止まらないボーイでありましたが、そもそも命を買い取られたら、それは間接的な死を意味するわけで、いくら大金をせしめても使うことができないんじゃア……という論理的思考も抛擲していざお屋敷に乗り込むも、ラビリンスの謀略に巻き込まれて死に体に。
一方、お屋敷の近くには異人さんばかりの奇妙な集落があって、そこでは宇宙人だ狼男だ化け物だ悪魔だとゴシックからSFから陰謀モンまでテンコモリの謎を盛り込んだ怪事件が発生。果たしてラビリンスの奸計とこれら一連の怪事件はどう繋がるのか、……という話。
お屋敷に乗り込んでいった駄目人間ボーイの視点から語られていくシーンと、異人さんたちが遭遇する奇妙な事件の数々が平行して語られていく結構で、そもそも異人さんの集落があるという設定が違和感アリアリ。とはいえ、当然ながらそこにはある人物の狂気が絡んでおり、これがラビリンスの出自ともリンクしています。
跡継ぎ候補でボーイが村に乗り込んでいくところと、異人さんたちの奇妙な事件が続々と発生していく前半から中盤にかけてはややゆったりと語られていくのですが、一読するとラビリンスの脅迫状から密室殺人へと流れていく展開がやや性急に感じられ、そのために物語の比重が歪に感じられるところはかなり賛否両論分かれるところカモしれません。
また肝心の蘭子が帰還してから件の事件に絡んでいくところもアッサリと流され、いよいよラビリンスとの対決となるわけですが、『人狼城』など本格ミステリを明確に標榜した蘭子シリーズとは対をなす冒険活劇もののラビリンス・サーガの結末にしては、「手に汗握る」とはマッタクの逆をいく後半の展開には多くのファンが不満も抱くのも頷けます。
しかし、中町センセも草葉の陰でニヤニヤしているであろう、異人さんたちの集落で発生した集団狂気の真相や、現代本格で珍重される「操り」がグロテスクなカオスへと転じていく真相は、同時にこのラビリンスのはかない末路と重ね合わせると、本クールの大河ドラマで取り上げられたアレの有名な一節を引用して推理の膜引きとする本作の結構とも見事な調和を見せているように思えるのですが、いかがでしょう。
さらには「最強」でありながら致命的な弱点を持つラビリンスを生み出すにいたった本物のワルの恐ろしい狂気の思想をさらりと描いて、それをこの村を総ていた本物の黒幕と対照させた構図など、一読すると不満にも感じられるアッサリとした真相開示の展開や、構成の比重に見られる歪さにもある種の物語としての必然があるのではという気がしてきます。
ラビリンス・サーガを冒険活劇ではなく、『人狼城』と同様の作風として読まれた読者は、やや不満を感じるカモ、と推察されるものの、傑作『カーの復讐』を想起させる隠し財宝の意外な真相や、『聖アウスラ修道院の惨劇』的ともいえる異人集落の真相など、蘭子の推理はやや駆け足で語られるとはいえ、個人的には非常に愉しめました。「蘭子vs.ラビリンス最後の戦いへ!」と煽りまくった惹句とは裏腹に、その真相が大河ドラマでアレなあの一節からの引用をモチーフにした構成ゆえ、やや斜めに構えて読んだ方が愉しめるかもしれません。このあたりはかなり取り扱い注意、ということで。