転校クラブ 人魚のいた夏 / 水生 大海

ジャケ帯に曰く『サスペンスありドタバタありの青春”転校生”ミステリー』、――と聞くと、読後感の爽やかな一冊をイメージしてしまうのですが、さにあらず。確かに中盤の展開は「ドタバタあり」のサスペンスを押し出したものながら、ラストは真っ黒。女子中学生が主人公の青春ミステリーとしては、禁じ手ともいえるエグい犯罪にその真相と、このドス黒さは相当に読者を選ぶのではないでしょうか。

物語は、銀行員の父の仕事の都合で転校ばかりしている元気溌剌な女子中学生の娘っ子が主人公。転校クラブなるSNSで転校経験者とダベるのがひそかな愉しみという彼女は、海と遊園地が見える新天地での生活をはじめるも、転校初日から嫌がらせを受けることに。しかしそのイジメも人違いということで一件落着したものの、学校を統べている王子様と、もう一人の転校生の確執に巻き込まれてしまいます。娘っ子は生来の気さくさをフル活用してもう一人の転校生である彼女と親しくなっていくのですが、やがて誘拐事件が発生し、……という話。

誘拐事件が発生するまでの前半で、その事件の端緒となる土地柄とそこで権力を誇る一族の現在と過去を描き出し、さらには一族の曰くと過去の事件に人魚伝説を絡めていくあたりは、一見すると青春ミステリーでありながら、その実は正史を彷彿とさせるドロドロの探偵小説チックな趣きが強いです。

複雑な事情を持った「家族」と「友情」を主題として物語が展開されていく結構は、『少女たちの羅針盤』にも通じる作者の真骨頂で、特に本作の場合は、遺産相続問題といったベタな動機をチラつかせて正史フウの探偵小説的な結構を持たせながらも、中盤から誘拐事件という大きなイベントを挿入することで、ジャケ帯にもある「ドタバタあり」のサスペンス小説に擬態しているところが秀逸です。

誘拐事件によって暴かれる関係者たちの思惑と同時進行していた事柄が繋がり、過去の事件の真相が暴かれていく構成はスマートで、爽やかな性格の主人公の視点から描かれていることもあって、青春ミステリーとしても一級品の風格を持たせているわけですが、後日譚として語られる関係者のその後はイヤミスのそれ。

娘っ子の視点から転校生ならではの「友情」を活写することで「青春ミステリー」としての風格を前面に押し出し、昼ドラ的な大人の事情が引き起こした事件によって描かれる「家族」 のグロテスクな様態は後景に退かせているわけですが、「友情」と「家族」の対照は、後日談の中でさらりと語られるもう一つの反転によって崩れ去り、後味の悪い真相によって幕となります。

「サスペンスありドタバタあり」なんて惹句にひかれて「ジャケ画の娘ッ子の腹チラに萌えッ!」なんてカンジでライトな青春ミステリーとして読み出すと、最後の最後で大火傷をするというイヤミスの秀作ゆえ、これまた取り扱い注意ということで。