内容紹介に「人生賛歌」とある通りの物語。何しろ篠田節子の小説なので、フツーの話に
まとめても面白くないはずはないのですが、今回はささやかな怪異を添えて、「人間の愚かさと愛おしさ」を描き出した作風が素晴らしい。
物語は五十過ぎのバツイチ男が、イタリア修行で身につけた彫刻技術を使って、タイトル通りの「肖像彫刻」の作成に着手するも、その彫刻が主人公の“ある力”によって怪異を発動させ、――という話。
一応短編集で一話完結の体裁となっているのですが、前半は怪異も何も発生しません。主人公が越してきた山梨のド田舎にあるレストランに飾られるべき彫像の末路が微笑ましい「レオニダスとニケ」や、生臭住職から秘仏制作をコッソリ請け負った顛末を描いた「雪姫立像」など、まあまあごく普通に微笑ましい終わり方をするのですが、第三話となる「高砂」あたりから妙なことになっていきます。
「高砂」は、チャキチャキの姉から、かつて新興宗教の道場になっていた実家に、主人公の両親の胸像制作を依頼される、という話なのですが、作者ならではの介護地獄の話が姉の口から語られるシーンなどで、うわっとなるものの、胸像が仕上がると、それがふしぎな怪異を発動させる。ここではその怪異の正体については伏せておきますが、オカルトなどにいっさい頓着しない主人公の周りで思いもかけぬ怪異が出現する、という展開は『ゴサインタン』や『仮装儀礼』など、数々の傑作をものにしてきた作者の真骨頂。また当人がうだつの上がらない中年男性というところがとてもイイ。
この両親の胸像がきっかけとなって、ボチボチと依頼が舞い込んでくるのですが、続く「雪姫立像」では、主人公の妄想ともとれた怪異がいよいよ第三者にまで現れてくる。「最高峰」では、亡くなったカリスマインテリ先生の肖像彫刻を娘から依頼され、それがまた頭デッカチのインテリ野郎たちの目の前で怪異を発動させるおかしさがタマらない。一件後妻業のワルかと思えた女が存外にマトモだったりと、このあたりの裏表、清濁併せ呑むキャラの描写も素晴らしい。
個人的な好みは、この「最高峰」とこれに続く「アスリート」で、世に旅立った新体操女の裸像制作を依頼され、困り果てながらも仕上げたものが、リアルな問題を引き起こし、――という話。依頼主のエロっぷりと、どうしようもない駄目っぽさも微笑ましい。
最後の「寿老人」で、ようやく主人公はこれから自分が進むべき道を見出すのですが、ここに至るまでの彼の変遷と、世間一般でよしとされる人生の終わりとはまったく異なる視点を、怪異を凝らして提示してみせたところが秀逸です。
ド派手な事件も冒険もナッシングながら、数々の傑作のエッセンスを巧みに取り込んで、こじんまりとまとめながらも抜群に面白い一冊。作者のファンであれば文句なしに愉しめるのではないでしょうか。オススメです。