第六脳釘怪談 / 朱雀門出

やたらとオススメに出てくるのと、Kindle Unlimitedに入っていたので読んでみました。『新耳袋』を彷彿とさせる、怖いというよりふしぎな話がテンコモリで、個人的には大満足。

収録作がたくさんあり過ぎるためここに列挙するのは控えますが、上にも述べた通り、因果応報話よりは、わけのわからない、ふしぎな話がとにかく秀逸。冒頭を飾る「十五の夜」はシンプルにまとめれば金縛りに遭った体験談なのだけれど、妙な声が耳許に聞こえてくるのが恐ろしい。「殺す」とかハッキリ恐ろしいと分かる言葉ではなく、あることを訊いてくるのですが、それがいくらでも解釈可能であるところがとても嫌怖い。

「伊吹山でUFOを見た話」も、UFOの目撃譚が心霊めいた話へと急転化する流れや、「捕まえたヤモリ」のどこかファンタジーめく怪異の見せ方、さらには「象が逃げました」や「ヅラの下」、「知らないものが冷蔵庫に」、「ゴミ箱の死体」、「青トカゲ」、「腕ごろごろ」などの日常に突然立ち現れる意味不明な情景のふしぎさと肌が粟立つ不気味さが好み、でしょうか。

「アリさんのおうちに行った話」における空間の捻れや、「グニャグニャ」の異次元ものとでもいえる理解不能な一瞬の幻視体験も、ふしぎな話を所望する怪談ジャンキーにはなかなかクるものがあり、とくに上にあげた「ゴミ箱の死体」や、旅先で見た姉の異様な姿が時を経て奇妙な因果に落ちる「大きな姉」など、意味不明ながら、二つの事象に繋がりを見てしまう話が素晴らしい仕上がり。

ほかにも、禍ものの突然の来襲をラストの情景で鮮やかに描き出した「鳥さん、怖い」や、岡本綺堂の怪談にありそうな気品を湛えた「池の秘密」。岡本綺堂の鰻の話を想起させる「見るなのスネークショー」など、古き怪談の骨法をしっかり添えた話もかなり愉しめました。そして、こういう新耳袋系の怪談は、いかに平易に、頭にすうっと入ってくる言葉をセレクトして描くかがポイントだなあ、と感じ入った次第。

本作が「第六」との事ですので、暇を見て第一から遡って読んでみようと思います。