閻魔堂沙羅の推理奇譚 A+B+Cの殺人 / 木元哉多

手に取ってから、前作『閻魔堂沙羅の推理奇譚 金曜日の神隠し』を積読してあることを知るという痛恨のミス。しかしながら、このシリーズはシッカリ独立しているので、もちろん本作だけでも十二分に愉しめました。

物語は、ヒロインの沙羅が人間界に降りてきて観光しているうち、子ども二人の万引き騒動に巻き込まれることに。霊界に帰れなくなった彼女は二人の子が何者かに狙われていることを知り――という話。

沙羅の視点ともう一つ、元暴力団のダメ男のシーンが交互に展開されるのですが、しばらくすると、この人物は沙羅が関わることになった二人の子どもの父親であることが明らかにされます。入院中でもうすぐお迎えがくる母親とダメ男との過去とともに、刻一刻とある者の死が近づいていく――今回は長編であり、かつ沙羅が人間界に降りてきて、物語の序盤から人間の行動に介在しているところが新機軸で、シリーズ前半ではあれほど人間の人生への介入を禁忌にしていた態度との相違に吃驚なら、沙羅が思いのほか生きている人間に対して饒舌なところもまたビックリ。

とくに彼女が関わることになった人間がまだ子どもということもあってか、彼女の長広舌が要所要所に挿入され、閻魔的ともいえる人間のありようを俯瞰した思想が語られているところも興味深い。そして上に述べたこととも関連して、彼女の心情、――というか、そもそも霊界の人物には人間的な感情はない筈なのですが、そうした彼女じしんの変化が後半に明らかにされていくところにおいても、本作はシリーズの大きな転換を示す一冊といえるカモしれません。

さて、事件の構図と推理においては、まったくミステリとは縁遠いダメ男が「探偵」を努めるわけですから、ロジックそのものもイージーで、かつ沙羅の提示するヒントによって大まかな真相へと辿りついていくところは予想通り。やはり本作においては、沙羅の介在が大きなキーとなっていて、ダメ男が蘇ったあとにおいてもそれが続くところが面白い。

何というか、今までは少女っぽかったのが、長広舌も含めてイッキに大人っぽくなった印象で、このあたりにも沙羅ファンは注目でしょうか。

安定のシリーズですが、長編であることと、ヒロインの変化など、見所の多い物語で、ファンであれば文句なく買いの一冊。オススメです。

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