ナルミカメラ / 成海 璃子, 平間 至

これは傑作。コンセプトとしては、写真の撮り方もまったく判らないズブの素人といえる成海璃子に、平間氏が師匠となって写真撮影の奥義を開陳していく、――というもの。本作のそうしたコンセプトを鑑みれば、露出がどうのとかシャッタースピード云々といった技法についてはほとんど触れられていないのは当然ながら、二人の会話から繙かれていく平間師匠の格言が素晴らしい。

二人の会話の雰囲気を感じてもらうために、ちょっとだけ冒頭部分を引用するとこんなかんじ。

平間「五感でね」
成海「はい、五感で撮る、ですね。……でも、なにか指示を出すのが難しいです。どこにどう立ってもらうかとか……」
平間「考えないほうがいいと思うよ」
成海「えーっ! どうしよう。わかんない……」
平間「じゃあ演技をするとき、考えながらやってるの?」
成海「いえ、考えないです(キッパリ)」
平間「ほら、演技と一緒だよ。事前に台本は読むけど、本番ではセリフなんかは体が覚えてる。どう撮ろうかは準備の段階まで考えて撮影では忘れる。体の方が素直なんだよ」

我らが成海”外道”璃子タンは写真に関してはド素人とはいえ、一流の演技派女優。撮影の奥義を演技に重ねて、いずれの分野にも共通した奥義をさらりと述べてみせる平間氏の指導方法も秀逸で、特に上に引用した「何も考えない」というあたりは、自分が敬愛する藤原新也もまた彼自身の写真の奥義として語っていることでもあり、このあたりはジックリと、何度も読み返してしまいました。

さて、人物をどう撮るかもよく判っていなかった璃子タンは平間師匠の導きによって、友達である安藤嬢と写真を撮ったり、アルバムをつくったりと、連載を重ねていくごとに撮影の深奥を会得していくわけですが、何よりも我らが璃子タンが「写真を撮る」ことをめいっぱい愉しんでいる雰囲気が連載の文章と写真から伝わってくるところがイイ。

特に音楽イベント「207万人の天才。風とロック CAMP IN 箭ROCK沼 改メ風邪とロック芋煮会」での「ライブ写真を撮ろう!」の企画は最高で、さすが我らが成海”ハナタラシ”璃子タンが水を得た魚のように、かぶりつきでロックなスナップをシュートしている姿には、彼女のファンならずとも惚れ惚れとしてしまうのではないでしょうか。

ちなみに後半ではスタジオ撮影や現像など、なにげに高度なことをサラリとこなしているわけですが、個人的にはちょっとゆーるいカンジの会話の中に平間師匠の格言が光る前半部が好みです。

平間師匠による成海璃子タンの写真集として見た場合、彼女のコスプレもまじえた後半の写真に、ファンがニヤニヤしてしまうことは間違いないものの、自分のようなキワモノマニアからすると、フツーに可愛い若手女優としての彼女の一面しか見えていないというか見せていない写真ばかりでチと物足りない、……とはいえ、「旅先で写真を撮ってみよう」という連載の中で、同じロックファンである友人の臼田あさ美タンと一緒に長瀞に旅したスナップの一枚には要注目。

ここで我らが璃子タンは薄緑のパーカーを羽織ったダンゴ頭という、ごくごくフツーの可愛い娘っ子の格好をしながらも、クラッセを手にした彼女が穿いているスパッツの柄がどうしてもスカルに見えてしまうのは自分だけでしょうか(添付写真参照)。

RICOH GXR + GR LENS A12 50mm F2.5

というわけで、ロックでパンクな璃子タンのお姿は、あくまでスパッツにガイコツを幻視できるのみながら、平間師匠の格言も交えて写真を撮ることの愉しさがイッパイに伝わってくる本作は、カメラ女子志願のビギナーのみならず、技術論云々よりも、写真を撮る行為そのものに対する姿勢について色々と考えるきっかけを探している自分のようなボンクラでも十分に愉しめる一冊といえるのではないでしょうか。オススメでしょう。