非実在探偵小説研究会 ~Airmys~ 弐號

体調が戻ってきて、公私共々何となーく余裕も出てきたのでブログの更新を再開したら、「エアミス研の最新号が出たのでヨロシク」というメッセージをいただきました。いや、実はその前の号である本作を積読棚の中に放り込んだままだったので、慌てて回収し、どうにか週末に読み切った次第です。最新号が出た今とあっては完全に旬を過ぎてしまっているのですが、簡単ながら感想を。

収録作は、サークルの夏合宿中に発生した殺人事件という、麻里邑ミステリらしからぬ直球の、麻里邑圭人「悪戯好きの死神」、七〇年代のナンセンスSFを彷彿とさせる掌編、二丁「いらっしゃいませ、ごちそうさま」、『企画1 お題競作』と題して、コンビニで漫画雑誌を買っていくものの、店を出るとすぐにゴミ箱にポイしてしまうという男の奇行の謎に鮮やかな推理と奇想の構図を見せる、佐倉丸春「コンビニエンス・サガ」、紫藤陽花「こいのゆくすえ」。

男の奈落と悲惨にブラックな味付けを施した変格復讐譚、二丁「おいしいパンケーキの食べ方」 、列車の中で奇妙な人物から聞かされた幻想譚の謎からその背景と未来の事件を繙いてみせる傑作、方功鉄文「ファントム・ペイン」、麻耶雄嵩「密室荘」のパロディでありながら、その結末の不条理にオリジナル以上の濃厚な麻耶風味を感じさせる秀作、二丁「麻耶雄嵩を読んだ男 密室荘」。

久しぶりに目にしたいとこの幽霊めいた存在の謎にさささやかな悲哀を添えてみせた、桜居志連「ロスト・ネーム」、タイトルとは裏腹な井上雅彦の掌編めいたオチで、台湾の寵物先生もニヤニヤしてしまうこと請け合いの、皐月あざみ「Zの悲劇’11」、貧乳娘ばかりが狙われる不可解な連続殺人事件にエロジックを添えた密室など大真面目な謎解きが美しき幕引きを見せる、タイガー田中「さらば貧しき乳よ」、その他の企画ものとして「私が愛した本格ミステリ」という構成です。

「悪戯好きの死神」は、合宿先で発生したコロシをオーソドックな展開で仕上げたもので、號、1号に収録されていた各短編を麻里邑ミステリの本流として見ると、本作はやや異色、といえるかもしれません。というのも、自分の場合、麻里邑ミステリの風格とは、事件の解決と真相開示によって明らかにされる『取り戻せない過去』と、そこから醸し出される悲哀と慟哭にアリと感じているからで、――そうした視点から麻里邑ミステリの短編を考察していくと、例えば1号に収録されていた「閉ざされた輪の中で」では、復讐譚が最後に探偵と犯人の逆転をもたらし、犯人側の視点から語られていた復讐が、真相開示によって『取り戻せない過去』を照射するという皮肉な結末が複雑な余韻をもたらす一編でした。

また號号に収録されていた「サクラサクミライ」も、現代本格らしい誤導を凝らした一編でしたが、この短編もまた恋愛をモチーフにした青春小説らしいすれ違いが『取り戻せない過去』の慟哭をよりいっそう鮮やかに描き出すという結構をもった作品だったわけで、翻って本作は、ダイイングメッセージに仕掛けられた登場人物の錯誤などをフックにした本格ミステリとしては王道路線をいく推理の過程が際立ち、號、1号に収録された作品には濃厚に感じられた風味はやや希薄に感じられます。何となーく、なんですが、「閉ざされた輪の中で」や「サクラサクミライ」『以前』の、――いいかえると、號、1号に収録された短編のような作風を確立する以前の作品のような気がしなくもないのですが、まあ、このあたりはボンクラによる思い込みということで(爆)。

「ファントム・ペイン」は、ミステリマニアの同人誌の中ではやや異色作ともいえる仕上がりで、実は収録作中、一番の好み。列車に乗り込んだ語り手が奇妙な話を聞かされるとあれば、当然乱歩のアレをイメージしてしまうわけですが、本作ではその「幻想譚」の中身はもとより、なぜ語り手はそんな話を自分に聞かせたのかというホワイの部分にまで踏み込んでいく過程が素晴らしい。やがてそれは未来の事件へと収斂していき、「幻想譚」の背景が明らかにされるのですが、この「対決」のシーンと、語り手のある真相を明かした幕となる叙情溢れるラストが美しい。傑作でしょう。

「おいしいパンケーキの食べ方」は作者曰く『思いついたその場で一気に書いた』というもので、これまたミステリの同人誌の中では異色作ながら、自分は捻れた復讐譚として読みました。とはいえ、さりげなく最後の最後でエロのスパイスを効かせているあたりは、號号収録の「風が吹いたら」で華麗なエロジックを魅せてくれた二丁氏の真骨頂。

「コンビニエンス・サガ」は、――実をいうと、自分はこの謎を目にしたとき、まずホワイに関しては、本作と同じ方向性を思いついたのですが、傍観者であった筈の語り手が、謎解きによって事件の構図の中に取り込まれてしまうというブラックな趣向がいい。

「こいのゆくすえ」は、まずこの謎の「犯人」をアッサリと明かしてみせるという意想外な展開で見せてくれます。語られた謎、「犯人」から見た謎と、シンプルな題目に見えた謎を重層化しながら、もう一つの事件のミッシングリンクと絡めて齟齬と違和を抽出していく精緻なロジックが秀逸。後輩嗜好といった作者ならではの風格を感じさせるラストとともに、現代本格における技巧という点では収録作中、もっともハイレベルな一編です。

『Zの悲劇’11』は、――実は読みながら「自分だったらとりあえずこういうフウに書くかな」とマッタク同じことを考えてました(爆)。井上雅彦とか小林泰三っぽいともいえる、ちょっとひねった奇想とそのオチをメルヘンと感じるか、キモいと感じるか……もちろん自分は「キモいメルヘン」として読みました。

「さらば貧しき乳よ」は、貧乳キラーなる殺人鬼による連続殺人を扱った一編で、巨乳ではなく貧乳という逆説的な道具立てがまず異色。もちろんこのあたりはロジックにも十分に活かされてい、特に殺害の動機や理由を突き詰めていくプロセスと、その逆説にはエロジックの妙が光ります。後半に密室殺人をブチあげておきながら、探偵がアッサリとそちらの謎解きを抛擲してしまう展開には面食らってしまいましたが、犯人が明かされた瞬間、その密室のハウダニットが綺麗に解明される趣向にはニヤニヤしてしまいました。

ミステリマニアらしいひねくれた作品あり、また「らしくない」秀作もありと、多様な作風の読み切り短編がイッキ読みできるというのもまた、こうした同人誌ならではの愉しみでしょう。すでに最新号である『Airmys 非実在探偵小説研究会 3号』が刊行されているわけですが、本号の在庫があるかはチと判りません。一応、通販もサイトはこちらで、通販フォームを見た限り、多分まだ手に入れることは可能かと。