母と死体を埋めに行く / 大石 圭

『アンダー・ユア・ベッド』『殺人勤務医』とともに「奇跡がやって来た」たことによって書かれた作品、と作者のあとがきにある通りの逸品で、堪能しました。

物語は、銀座のママを母に持つ娘っ子が、毒母の厳しい躾けによって育てられる。ある日、彼女は毒母とともに死体を埋めに行くことになり、――という話。

まずタイトルと構成が秀逸。物語前半で、早くも毒母に請われるまま、娘っ子は死体を北関東の山中に埋める手伝いをさせられるのですが、この埋めた死体が何者だったのかなど、その背景が一切が明かされないまま、娘っ子の受難はまだまだ続き、――というか、死体遺棄という犯罪行為はまだまだ序の口。

彼女は母に命ぜられるまま、某ドンファンを彷彿とさせる爺さんの愛人にさせられ、男の殺害を強要されると、今度はママの店で働かされ、DV男の愛人にさせられた挙げ句、またもやこの男のコロシを母に請われることになる、――このミッションの要所において、どうして毒母が男たちを殺そうとするのか、その背景が明かされていきます。第二の犯行とも言えるDV男の殺害によって、ドンファン殺しの哀切が明確な殺意に上書きされるとともに、娘っ子の成長と意識の変化が描かれていく展開は、毒母に降りかかるある受難によって一転、物語の焦点は娘っ子から毒母へと変わり、最初に埋めた死体とその背景が明かされていく展開はとてもスリリング。

ストレートな復讐劇の矛先が変異して、毒母が絶体絶命な状況となるなか、タイトルにもある『母と死体を埋めに行く』で描かれたシーンが繰り返され、物語は作者の代表作ともいえる『アンダー・ユア・ベッド』的な結末へ帰着するかと思っていると、そうした読者の期待からやや外れた妙に明るい「絶望的なハッピーエンド」で幕引きとなる構成には、ファンでは快哉を叫ぶこと請け合いでしょう。

娘っ子の成長譚であると同時に、贖罪を描いた物語でもある本作、作者があとがきでも言及している通り、ヒロインである娘っ子の存在感が圧倒的で、彼女の対比として描かれる母親が、あるときはヒロインの将来の姿として、またあるときはヒロインの愛憎の対象として描かれる見せ方も心憎い。これが、毒母絶体絶命の状況の後半から繰り出される変転を効果的に見せているところも秀逸です。

ヒロインと毒母ふたりの未来を覗いてみたい、という読後感は『人間処刑台』以来カモしれません。作者の昔のファンも十分に満足できる会心の一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。