少し前にアマゾンプライムで中島哲也監督の『来る』を観て、原作はどんなものなのかと興味が湧いて購入。視点人物の異なる三章の構成や、冒頭のシーンから前段の電話を使った印象的な仕掛けへと繋がる展開など、映画が意外なほど原作に忠実だったのにはチと吃驚。とはいえ、黒木華演じる母親がアレになっていたりと改変された大きな箇所もあったとはいえ、映画を観たあとも十分に愉しめる一編に仕上がっています。
物語は、呪いとも何とも知れないあるものに取り憑かれた陽キャの旦那が、知り合いのオカルトライターにヘルプを求めるも、マンションで壮絶な惨殺死体となって発見される。妻と娘にもその怪物の魔手が及ぶにつれ、オカルトライターの男とその恋人の霊感少女はくだんの怪物と対峙するも、その強さにもうタジタジ。ついに霊感少女の実姉がその除霊に挑むのだが――という話。
映画を先に観ていたので、最強霊能者である実姉は完全に松たか子、ブッ飛んだ姉は小松菜奈で脳内再生できたのですが、得体の知れない姉と陽キャ旦那の妻が因縁の場所ですれ違っていたりといった小技を効かせた逸話の繋がりも面白く、伏線回収の妙については、解説で千街氏が述べている通りミステリのそれ。
最初の章で陽キャ旦那の視点から描かれる不気味な怪物の曰くが西洋のアレとリンクしたりといった背景づくりに眼を奪われていると、妻の視点で語られる怪異が現実へと落とし込まれる反転で足許をすくわれ、さらにはそこに異人物の邪悪な念も絡めて、怪物の強さ不気味さを増幅させていく結構が素晴らしい。
視点人物の変遷によって登場人物の印象がガラリと変わっていくため、誰の視点で物語を眺めるかでその恐ろしさの質感も変わっていくような気がします。自分はブッ飛んだ霊感女たる妹の眼で眺めていたのですが、恋人のオカルトライターが狂言回しとしては一番中立カモしれません。とはいえ、どうもこの物語、男という生き物はおしなべて最悪、家族制度はこれすべてゴミクズ、――というような……これが作者の思考なのか、それともこの物語特有のものなのかは判然としないものの、どうもそうした瘴気が感じられるところがちょっとアレ。
デビュー作にして、ぼぎわんに「まさか……まさか……比嘉琴子かああああ!」と言わせているので、最強霊媒師の再登場でシリーズ化は確実という盤石さで、実際『ずうのめ人形』などは本作以上にミステリしているとの感想も散見されたので、ちょっと追いかけてみようと考えています。
クライマックスのぼぎわんとの対決は、その下準備の大仰さから映画の方が凄いかナ? と感じられるものの、“アレ”だけの姿をした怪物の明快なビジュアルと、露わな下着姿の琴子を拝めるという点で、原作の方が個人的には推せるかな、と感じた次第です(ちなみみに蒼井優のファンであれば、エロい化粧姿と濃厚な絡みシーンがバッチリある映画をオススメ)。
伏線回収と反転の妙を堪能できる、ホラーでありながら、構成と趣向にミステリ魂を感じるゆえ、ミステリファンの読者にも強烈にリコメンドできる一冊といえるのではないでしょうか。