傑作。「比嘉姉妹シリーズ」とある通りに、『ぼぎわんが、来る』にも登場した比嘉真琴が登場し、最強霊媒師の姉・琴子もチラっと最後の最期に姿を見せる本作、たしかに描かれているものは怪異であるものの、仕掛けや技巧は完全に本格ミステリのソレ。個人的には『ぼきわん』以上に堪能しました。
物語は、雑誌社で働く男が手にした原稿を読み進めていくと、そこに書かれていた呪いが発動し、最後には死に至るらしいことを知る――そして実際に怪異が出現したことに戸惑う男は、『ぼきわん』にも登場したライターの野崎とその婚約者・比嘉真琴の二人の協力を得て忌まわしき呪いを解こうとするのだが、――という話。
『ぼぎわん』でも三者の視点を変遷させて物語を進めていくなど、なかなか凝った構成で魅せてくれた作者ですが、本作でも、ある小説を読んで「ずうのめ人形」を呪いを受けてしまった人物の視点と、彼が読んでいる呪いの小説が平行して語られていく趣向が素晴らしい。
物語が進むにつれ、その間が次第に狭まっていくサスペンスと、それを書いた者の背景が明かされていくうち、読む側と作中人物との因縁が炙り出されていくところが秀逸です。さらにはこのシリーズに絡めて、呪いの小説に“ある人物”が登場するのですが、この人物の死の直前におけるある行動が、最後にはまったく別の意味へと反転し、その印象が一変する趣向など、仕掛けによって人間ドラマを描き出す小技を巧みに効かせた風格には俄然引き込まれました。
真琴は今回もその優しさと性格から、首を突っ込んだばかりに自分も呪いを受けてしまうというお定まりの展開ながら、今回は危機一髪のところで姉の琴子が助けてくれるわけでもなく、まさに窮地に陥るのですが、そのときの怪異の描写がとてもイイ。真琴たちが怪異と苦闘するさなかで、呪いの根源と対峙する人物は、作中ではその背景も明かされず、物語の外枠にチラッといただけだったので、この人物に絡めた真相には超吃驚。
本格ミステリとしてはこれまた定番の中のド定番の仕掛けではあるものの、今回はホラー業界という特殊な世界をカモフラージュにして、この人物の属性を隠し仰せた作者のミステリ的な技巧も素晴らしいの一言。
野崎の奮闘によって呪いの小説の作者の背景が炙り出されるとともに、その人物の過去と現在のギャップの間隙をついて、書かれてあることの背後にある“書かれなかった”ことから立ちのぼる、怪異を生みだした人間存在のおぞましさ――それを「やはり恐いのは人間」という安直さに堕とすことなく、死体の様態から怪異の現出に切り込んでいく謎解きも興味深い。
怪異の恐ろしさ、人間のおぞましさ、そのすべてを本格ミステリとホラーの混淆によって鮮やかに描き出し、シリーズものとしての魅力も交えた逸品といえるのではないでしょうか。オススメです。