小説 ゆうえんち -バキ外伝- 2 / 板垣恵介, 夢枕獏, 藤田勇利亜 (イラスト)

2024年1月現在、漫画の方ではすでに4巻まで刊行されている物語の小説版。ずっと前に、――とブログの履歴を辿ってみたら昨年23年の3月に小説版の1巻をとりあげてました。

昨年は外から世相を眺めるにつけ、なんだか「お堅い」小説に倦んでしまい、本格ミステリはあまり手に取る気になれず、その一方で、「肉体派」ともいえる物語ばかり読んでました。そのうちのひとつが『餓狼伝』や『獅子の門』といった夢枕獏の格闘小説だったのですが、今回あらためてこの『ゆうえんち』を読み返してみて、さらりと言及されるキャラの正体が判ったりと、再読にもかかわらず存外に愉しめてしまいました。

1巻では、漫画版の冒頭に描かれていた主人公・無門と久我重明の出会いから、彼が師匠・松本太山に弟子入りし、太山を倒した柳龍光を探して大日本武術空道を訪れたいきさつが語られていましたが、本作2巻は冒頭、『バキ』愚地克巳へのインタビューから、無門とこのあと「ゆうえんち」で彼と闘うことになる神奈村狂太との因縁が語られていきます。

「ゆうえんち」を統べる蘭陵王の息子である、蛟黄金丸のおそろしさを見せつける逸話は、いま読むと、――この黄金丸のキャラ、ちょっと『キマイラ』に出てくる久鬼麗一とかぶるような気がしないでもないような……(最後の最後でこの人物のある特徴が明かされるのですが、そのようすはまた『キマイラ』に出てくるもうひとりの人物を彷彿とさせる)。

個人的にニヤついてしまったのが、この黄金丸の逸話のあと、れいによって作者が話を聴く人物として鹿久間源なる男が登場すること。話そのものは、久我重明の凄さを際だたせる逸話となっているものの、羽柴彦六、水上流の鬼頭というふたりの名前が出てくるところに注目でしょうか。

いずれもが、久我重明と羽柴彦六をお互いの宿敵とし、羽柴と巡り会った青年たちが「獅子」となっていくさまを描いた『獅子の門』の登場人物。鹿久間源は『獅子の門6 雲龍編』から登場し、久我重明の兄・久我伊𠮷と闘った人物で、彼が語っている水上流の鬼頭と久我重明の闘いは、『獅子の門』のなかでも一番のお気に入りで、ふたりの闘いは『獅子の門 8 鬼神編』に収録されています。

こうして見ていくとこの『ゆうえんち』、やはり久我重明がフル活躍する『獅子の門』を読んでいた方がより愉しめるカモしれません。

で、蘭陵王の出した試験に見事合格して「ゆうえんち」参加の権利を得た無門が、いよいよ死闘の舞台となる「ゆうえんち」でプロレスラーのゴブリン春日と相対する、――というところが本作の後半。宿敵・柳もちょっとだけ登場しますが、彼との闘いは最後まであおずけ。

漫画版の方は、まだまだここまで追いついてはいませんが、小説版だからこその、想像力を駆使した楽しみ方もあるゆえ、漫画版の4巻を読了し、その続きをあらかじめ知っておきたいというひとでも十分にワクワクできるのではないでしょうか。ただこの2巻、手に汗握る闘いの外連は薄く、強いて言えば黄金丸の持つ残酷さが際だった学園シーンのみという寂しさゆえ、その点については頭に入れておいて挑んだ方が吉、かもしれません。

小説 ゆうえんち -バキ外伝- 1 / 板垣恵介, 夢枕獏, 藤田勇利亜 (イラスト)