オールドレンズ・ライフ VOL.2

ジャケにある「最新ミラーレス機とオールドレンズの相性を徹底チェック!」という惹句に惹かれて購入。しかしこの点に関してはやや期待外れというか、……なるほど、自分のような人間はオールドレンズ・マニアではないんだなァ、ということが判った次第で、このあたりは後述します。

この大見出しの他に面白かったのは、後半に大きく取り上げられているシネレンズの特集で、これは、自分のようにシネレンズに興味がありながらも、いったいどこから手をつけて良いのか判らないビギナーにとっては非常に参考になりました。まずは「はじめてのシネレンズ」と題して「レンズ描写の特長、ベースボディの選び方、そしてシネレンズ特有のお作法を、初心者にもわかりやすく解説」してくれるというもので、豊富な作例も交えて、ハイスピードレンズがゴロゴロしているシネレンズの”沼”の入り口を垣間見ることができるところがいい。エルジートのぐるぐるボケなど、個性的なレンズの作成によってシネレンズの特長を明快に説明した後、続く「シネレンズ・コレクション」で、「魅惑的な描写のテイスティング」へと移り、Cマウントの作例を中心に、アンジェニュー25mm F0.95をはじめとした、ハイスピードレンズならではの美しいボケ味はもとより、ロスのシネレンズ25mmF1.9の淡い色合いの中に見られるコントラストなど、まさにそのレンズならではの個性が堪能できる作例の数々は素晴らしいの一言。

この中で良いな、と思ったのは、「世界を幻想に変える魔法」というタイトル通りに、夢幻的な描写を見せるキノプラズマート12.5mmF1.5と、アンジェニュー25mm F0.95でしょうか。アンジェニュー25mm F0.95の描写はまさに神レベルながら、まあ、やはり市場価格が相当にアレなわけで、これだけの金額を出すならやはり現代のレンズ、――フォクトレンダーのノクトンあたりを買った方が安心できるんじゃないかナ……なんて安易な方向にいってしまう自分はやはりオールドレンズ・ファンとは違うんだろうなァ……と感じ入った次第です。

ちなみに自分は現在、GXR A12 MOUNTとNEX-7の二台でヤシコンのレンズを使っているわけですが、ヤシコンのレンズといっても、この世界ではきっとビオゴン、ホロゴンといった神レンズでないと認められないはずで……なんて語り始めると何だかこのオールドレンズ・ブームに乗れない中年男のボヤキになってしまいそうなので、これくらいにしておきますが(苦笑)、本作に眼を通して判明したのは、銀塩時代に神レンズではないフツーのレンズでフツーに写真を愉しんでいた人間が、敢えて銀塩時代の作法でデジカメを使おうとするようなケースは少ないのカモしれない、ということでありまして。

ちなみに自分が銀塩時代にコンタックスの一眼で使っていて、現在はGXRとNEX-7の二台で使用しているレンズは以下の通りで、

  • ヤシカ ML 24mm F2.8
  • ディスタゴン 25mm F2.8
  • ディスタゴン 28mm F2.8
  • ディスタゴン 35mm F2.8
  • プラナー 50mm F1.7
  • マクロ・プラナー 60mm F2.8c
  • バリオ・ゾナー 35-70mm F3.4

の計七つ。GXRのA12 MOUNTはローパスレスで、正直切れ味と繊細さだけを取れば、わざわざNEX-7を新たに投入する理由はなかったわけですが、A12 MOUNTはどうもヤシコンのディスタゴンと相性が悪く、自分好みの色が出ないのが不満でした。で、本作ではそうしたレンズとボディの相性に関してもっと深く切り込んだ内容を期待していたのですが、上にも述べた通り、こんなフツーのヤシコンレンズが取り上げられるはずもなく(爆)、そうした点ではちょっと期待外れだったというわけです。

あまりこのブログでカメラの話題を続けてもほとんどの人が読まないと思うのですが、一応検索でたどり着くことがあるかもしれないので、この機会にヤシコン・ツァイスのレンズとGXR、NEX-7、NEX-5の相性について自分の感じたところを書き留めておきます。

ちなみに自分が、デジカメで最初にヤシコンツァイスのレンズを試したのは、E-520だったのですが、これはミラーレスではないのでここではとりあえず割愛。GXRの後に手に入れたNEX-5にマウントアダプターをかませて、上のヤシコン・ツァイスのレンズを使うようになり、ようやくマトモな写真が撮れるようになりました。

NEX-5は、A12 MOUNTとは対照的に、ヤシコン・ツァイスの個性が非常に色濃く出るボディで、プラナー特有のなだらかな階調、そして草木をアンダー気味に撮影したときに見られるディスタゴン特有の重いトーンなど、所有レンズの中ではバリオ・ゾナーにもっとも典型的に見られる濃厚な発色とキレなどなど、――NEX-5ではツァイスらしい個性を堪能していたわけですが、しかし不満がないわけではありませんでした。これがローパスモデルのゆえなのか、特有の線太りがあり、これゆえに、時にはキットレンズの方が明らかに解像度もアレなのにまとまった絵に見えてしまうということもあったりして、これがA12 MOUNT購入を決意させた一番の理由であります。

そこでGXR A12 MOUNTを購入するに至ります。これは、発売当初からローパスレスという仕様ゆえ、そのレンズの個性が非常に出やすい、ということが語られていたボディでもあり、自分はA12 50mmと28mmも愛用しているのですが、A12 MOUNTにヤシコン・ツァイスのレンズをつけて撮影した写真を目にしてまず驚いたのが、その色合いからコントラスト、トーンにいたるまで、A12 50mmと非常に似ているということでした。実をいうと、A12 50mmの印象が「何だか銀塩時代にプラナーで撮影したものに似ているなあ」というものだったので、もしかしたら、これはA12 50mmの目指す絵作りの方向性がプラナーに近いということなのかもしれません。

ただ、A12 MOUNTは不思議なことに、ディスタゴン 28mmで撮影したものも、すべてプラナーのような風合いに仕上げてくるので、これがちょっと不満でした。いや、プラナー至上主義のマニアからすれば、贅沢な物言いなのかもしれませんが、銀塩時代の記憶にあるディスタゴン28mmや35mmの色合いはもっと重いトーンだったはずで、A12 MOUNTはやたらと露出を高めに振ってくることもあって、アンダー調で撮影しても、プラナー風の爽やかな写真に仕上げてしまうその絵作りの方向性にちょっと不満があったわけです。

そこでNEX-7を最近新たに投入し、……という具合にちょっと妙な方向で”沼”にハマってしまっているような気がしないでもないのですが(爆)、まあそこはそれ。NEX-7は手に入れる前から、ビオゴン、ホロゴンでは多いに問題アリ、という噂は耳にしていたものの、自分の愛用レンズはごくごくフツーのものだったので没問題。問題はNEX-5に見られたヤシコン・ツァイスのレンズの個性を際立たせた絵作りが果たしてNEX-7ではどうなっているのか、ということで、結論からいうと、こちらはまったく杞憂でした。

期待通りにディスタゴンは銀塩時代のディスタゴンの、そしてプラナーは銀塩時代の記憶にあるプラナーの絵を出してきます。バリオ・ゾナーのキレという点では、ローパスレスのA12 MOUNTの方がその潜在能力を十二分に引き出しているといえるかもしれませんが、解像度では、A12 MOUNTのLサイズと、NEX-7のMサイズとほぼ同等のサイズで撮影しても、遠景などを等倍で見ると、NEX-7の方が上です。また、心配していたNEX-5の線太りもそれほどではなく、ローパスレスを仕様とするA12 MOUNTには負けるとはいえ、NEX-7の絵作りは、ヤシコン・ツァイスのレンズとの相性という点では、現時点ではベストといえるのではないでしょうか。

というわけで、ようやく「オールドレンズとの相性を徹底チェック!」という本作の趣旨に戻ってくることができました(爆)。ネットではマニアのオールドレンズをGXRやNEXにかませたレビューがたくさん溢れているものの、ヤシコン・ツァイスのフツーのレンズとの感想はあまり見られないようなので、これが、自分のようなマニアではないけど、昔の銀塩の作法でデジカメを愉しんでみたいという奇特な方の参考になれば幸いです。