東京国際ブックフェアに楽天のkoboを見に行ってきた話と、クリエイターEXPOで気になった日本画家・吉田真美のこと

リーマン仕事が休みだったので、今日はビックサイトで開催されている東京国際ブッフェア、電子出版EXPO、クリエイターEXPOをハシゴしてきたので、簡単なレポートをまとめておきます。目的は、先日注文を入れた楽天のkoboで、自分はコレ、電子ブック絡みだから電子出版EXPOの方で展示されているものと思っていたのですが、これが大きな勘違い(苦笑)。

電子出版EXPOは上のフロアで開催されていたのですが、一階のブックフェアに比較すると何だかアンマリ盛り上がっていませんでした。まあ、最終日ということもあったのでしょうが、展示物も担当者もすっかり店じまいモードといったかんじで、見るべきものはあまりありませんでした。BookLiveの端末は展示されていましたが、自分が行ったときには閑散としていたような……というか、実機に触れないとあれば、盛り上がりに欠けるのは当然で、このあたりからしてすでに楽天のkoboに大きく水をあけられているような気がします。

で、楽天のkoboですが、まず結論からいうと、非常に良かったです。厚みはkindleよりありますが、軽い。そして小さい。この手の端末であれば、物理的な小ささは畢竟、ディスプレイの小ささとなって読みにくさに繋がることが危惧されるわけですが、あくまでkindleとの比較という点においては、kindleの下部にあるキーがなくなったものと思えばよろしいかと。そして、同じ電子ペーパーでありながらも、kindleよりさらに反射が少なく、文字が見やすい印象を受けました。

カタログにある「タッチで簡単、直感的な操作」というキャッチフレーズ通りに、赤外線方式のタッチパネルは違和感もなく使うことができ、たとえばipadやAndroidタブレットの操作に馴れている人でもすぐに使いこなすことができるのではないでしょうか。このkoboのブースだけはものすごい人だかりで、皆が皆、ひとたび実機を手にすると長ーい時間触りまくるので、色々と確認することができなかったのですが、デフォルト表示になっていた日本語フォントは、これまた危惧された通り、やや細過ぎて見にくかった点を除けば、十分に合格点。老眼鏡を必要とする自分のようなロートルだと、もう少し太字のフォントにカスタマイズした方が良いかとは思いますが、こうしたデジモノ・ガジェットに一番関心が高いヤング層であれば没問題、標準のフォントサイズで十分にいけるのではないかと。

自分が注文を入れたのは黒なんですが、実機のほとんどは白で、こちらの方が良かったかな、とチと後悔……ただ黒といっても艶艶の安っぽいかんじではないので、これもまた良し、ということにしておきます。あとはコンテンツの充実と、自作したPDFやEPUBの使い勝手が気になるところではありますが、このあたりは手に入れてからまたブログで取り上げてみたいと思います。

電子出版EXPOの方で、楽天のほかにもうひとつ盛況だったのが、手塚プロダクションのブースで、こちらは、お懐かしや長井秀和氏がipadを手に、持ち前の話芸を交えて、手塚治虫全作品を電子ブック化した商品のプレゼンを行う、――というもので、これがうまくてすっかり見入ってしまいました。プレゼンの内容から察するに、この商品のターゲットは、個人というよりは飲食店をはじめとした個人営業店舗で、クローズドなwifi環境を簡単に構築し、顧客には手塚治虫の漫画を楽しんでもらうというプラスアルファのサービスを提供するというもの。

手塚治虫プロダクションのブースでプレゼンをする長井秀和氏
NEX-7 + CONTAX Vario-Sonnar T* 35-70mm F3.4

ユーザがこのSSIDに接続してブラウザを立ち上げると、即このサービスのトップページを見ることができるという利便性を強調しており、ネットに明るくないユーザに対してこの付加価値的サービスの魅力をいかに伝えるかに腐心したプレゼンとなっていました。長井氏の話ネタはときに滑り、またときにはかなりきわどいネタも織り交ぜての見事なもので、自分はかなり愉しめました。手塚プロダクションの商品のプレゼンターとしては意外過ぎる人選ではありますが、これは成功していたと思います。

それと「モーションマンガ」というのがかなり秀逸で、画はあるものの、その裏で台詞や効果音が流れるという趣向は、アニメというより、不思議とラジオドラマに近い印象を受けました。これ、価格はどれくらいなのか不明ですが、wifiを構築するブツはいらないので、コンテンツだけで売り出されるなら、ちょっと欲しくなりました。

最後のクリエイターEXPOですが、数え切れないくらいの漫画家、絵本、イラストレーター、写真家、ライターなどが小狭いスペースに机を出して、背後の壁とこの机でプレゼンを行うというもの。いずれのクリエイターの作品も十分にうまく……というか、これだけの人数だと、すーっと通り過ぎるばかりの入場者に印象づけてもらうのは至難の業。

一渡り展示を見て面白いな、と思ったのは、漫画家は漫画家、絵本作家は絵本作家、イラストレーターはイラストレーターそれぞれに共通した雰囲気みたいなものがあったことでしょうか。一番怪しいオーラを放っていたのは、作家・ライターゾーンの方々で(爆)、まあ、一瞥するだけではっきりと作風を伝えられる漫画やイラストと違って、その魅力をアピールするのはかなり難しかったはずで、なかには力み好きであさっての方向に突っ走ってしまった御仁もいたりしたのはご愛敬。たとえばここに覇王がブースをひとつ構えたりしたら、いったいどんな素晴らしい展示が見られるのか、……なんて妄想をしながらひとりグフグフと含み笑いをしていたのはナイショです(爆)。

そんな中、印象に残ったのは、宝肖和美のモノクロ写真に、影絵アートの河野里美。宝肖和美は、自然分娩のお産に立ち会った模様をモノクロ、スチールに編集したというもので、DVD作品にしあげたということですが、自然分娩の出産というドキュメントが孕んでいるテーマをどれだけ自分のものとして受け入れたのか、その”覚悟”が撮影された写真の中にどのようなかたちで表出されているのかが、興味のあるところです(たとえば藤原新也の『千年少女』や、近作では松本典子の傑作『野兎の眼』のように)。

   

しかし、その中でもイチオシは、日本画家の吉田真美で、地元の女子美大出身というだけでも応援したくなってしまうのですが(爆)、日本画で敢えてメルヘンチックな羊をモチーフにしているところがいい。もちろん日本画だからといって花鳥風月である必要はまったくないわけですが、吉田真美の画の場合、日本画の技法が生み出す独特の”濁り”が、羊という水彩画的なモチーフに不思議なリアリズムを与えているような気がしました。これは写真ではなく、実物を眼にしてみたいところです。彼女のサイトを見たら、今年の秋に「女子美大学院卒のメンバーとの日本画グループ展」が開催されるそうなので、これは是非とも行ってみたいと思います。

電子ブックEXPOは今日で終わりのはずですが、本丸の国際ブックフェアはこの週末も絶賛開催中で、河出書房の本のバーゲンとか(「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」もズラリと揃ってました)、あとどこのブースだったかは失念してしまったのですが、青幻舎の『MAGNUM CONTACT SHEETS』も安売りしていたので、そのあたりの豪華本を狙っている人は足を運んでみるのも吉、でしょう。

[07/10/2012 追記:]
ここによると、kobo のタッチパネルは、感圧式ではなく、赤外線方式とのことなので訂正しておきました。