裏町奉行闇仕置 大名斬り / 倉阪 鬼一郎

黒州裁き』に続く、裏町奉行闇仕置シリーズ第二弾。クラニーの時代モンは今のところは三シリーズあるわけですが、「小料理のどか屋 人情帖」がミステリだとすれば、こちらはクラニーの様式でもって時代モンの舞台にホラーを現出させたという感じでしょうか。おそらくスプラッター好きの方であれば、今作も『黒州裁き』と同様、かなり愉しめるような気がします。

ジャケ帯に「極悪非道の大名を必殺剣でぶった斬る!」とある通りの筋運びで、今回の眼目は、主人公・藤三郎が同門の剣客と死闘を繰り広げるというところ。殺陣はもとより、今回はフルチ御大などをはじめとしたスプラッターもんでは定番の幕引きまでしっかりとトレースしたこだわりぶりがイイ。

また今回のワルは、商人からモノを購入したあとでその借金を踏み倒した挙げ句、賊に入っては商人一家を皆殺しにするという、前作を凌ぐほどの極悪ぶり。「人の嘆きは蜜の味」、「とにかく、あきんどの分際で、うちらに金の取り立てにくるようなあほは成敗されて当然や」、「どうぞお納めくださいまし、て言うて、上等な紅やら白粉やら持ってきたったらええねん。うちらのほうから出向いていたってるねんで。そやのに、金まで取ろうとするのんか。けしからんやっちゃ」――などと、クズらしい名台詞を残している悪大名なのですが、こいつの用心棒というのが、ジャケ帯にもある藤三郎とは同門となる一刀流れの使い手。

前半の道場破りで顔見せを済ませたあと、最後に藤三郎との死闘を能舞台になぞらえた様式で見せてくれるのですが、クラニー式のチャンバラもすっかり堂に入ったかんじで、おそらくこのシリーズだけ読んでいる時代モンの読者は、作者がまさかバカミスの名手ということには気がつかないカモしれません。

上に述べた、ワルをすべて成敗したあとの館の後始末もそうなのですが、これまた定番の首チョンパなどのスプラッタシーンもしっかりと用意してあり、さらには前作と同様、被害者の形見から藤三郎が漢字の一文字をイメージしてみせるところなど、文字に対するこだわりもしっかりと発揮しているところもステキです。

『黒州裁き』のような登場人物の紹介にページを費やすこともなく、物語は非常にスピーディーに進んでいくためイッキ読みは必至。シルバー世代に優しい大きな文字と組版も老眼の自分には嬉しく、あまり難しいことを考えずに「とにかくホラーっぽい時代小説が読みたいんだよッ!」なんていう、我が儘なオジイサンをピンポイントで狙い撃ちにした本作、前作のホラーっぽい拷問シーンがタマらないなんて方には、文句なしにオススメできる一冊といえるのではないでしょうか。