【推理專欄】 「我喜歡『理性與感性並重』的作品」──專訪《無名之女》作者林斯諺 (2)

昨日のエントリに続き、冬陽氏による『無名之女』の作者・林斯諺氏へのインタビューの後半をお送りします。

Q4. その二点のほかに、「本格ミステリの謎解き」は、ミステリにおいて中心的な役割を担うものといえます。そしてこれはあなたが最も得意とするものでもありますね。このあたりについて少しお話いただけますか? あなたの個人的な好みで結構ですから。

「昔『最偉大的心智遊戲』というタイトルでエッセイを書いたことがあるんです。まだネットのどこかに置いてあるとは思うんですが、これに私の考えがかなりはっきりと書かれてあるので、興味のある方は探してみてください。簡単に言ってしまうと、本格ミステリの最大の魅力は、謎解きでしょう。それは、多くの人が数学の問題を解くことに感じている魅力と同じで、まずその問題が扱っているテーマに興味を持つ。そうして問題を解いているうち、最後にはその解法にあっと驚くという――。

現代本格は進化を必要としているのではないでしょうか。もっと高みへとね。謎解きのほかにも、多くの方面で深化を遂げる必要がある。そうすることが、先ほど述べたような、新しいミステリの考えへと繋がっていくのだと思います。そんな考えもあって、『無名之女』では、謎解きの楽しみだけではなく、ほかの魅力を持たせようつとめました」

Q5. 二〇〇三年に短編「霧影莊殺人事件」を発表してから、今年で十年になります。この十年間を振り返って、自身の創作と実生活に何か大きな変化はありましたか?

「普段の生活は相変わらずですよ。しかし創作においては明らかな変化がありました。クイーンも創作を重ねていくなかで、そうした変化をしばしば経験していますが、そこで作風を大きく変化させている。しかしクリスティやカーにはそうしたものがありませんでしたよね。私は意識的にそうした変化を起こすことで、新たな段階を目指そうと思ったんです。いわばその分水嶺が『無名之女』ということになります。この作品で私は物語の方向性を大きく変えて、クイーンがヴァン・ダインをお手本にミステリを書いていたような、模倣の段階は終わりにしよう、そう思ったんです。

新たな作品の方向性を模索する以外にも、作品に対する態度が変わりましたね。脱稿するまでに、以前は多くても一度改稿するだけだったのですが、いまは作品を見直すことが好きなんです。短編であろうと長編だろうと、作品を仕上げたあと、何人かの友達に読んでもらって誤りがないかのチェックをしてもらったり、さらに彼らの意見を聞いてそれを作品に反映させたりもしています。作品を書き上げたあと、すぐには眼を通さずに”寝かせて”おくこともあったりします。というのも、あの書き方で良かったかな、もっとうまいやりかたがあるんじゃないかと考えてしまうので。作品を渡してしまえば、もう見直しもできませんから。

ミステリは非常に厳格さを重んじる文学ですから、バグは少ない方がいい。そのためにも”寝かせて”おく必要がある。時間がたてばそれだけバグを見つけることもやりやすくなります。論文も小説もその意味では同じようなもので、違いがあるとすれば、論文を書くときには指導教授がいてチェックを入れてくれるけれども、小説では、気持ちこそ論文を書くときのような状態を維持したまま、すべてを自分でやらないといけない。傑作であれば、絶対に直しが入っています。改稿を行わない作品は、十回の直しを入れた作品にはかないません。

しかしだからといって、出版市場においては、スピードも要求されます。三年から五年の間に出すのが一冊というのでは、読者は作者の名前も忘れてしまうでしょうし、かといって租税乱造を繰り返せば、いずれ読者からそっぽを向かれてしまうことになる。作品の質を維持していくというのは、ひとつの課題ですね」

Q6. 若い世代の中では、あなたは書いている方ではないですかね。作品の量という点については、これだけ書くぞ、というような目標をたてているんでしょうか? また創作に対するモチベーションを維持していく秘訣のようなものがあったら聞かせてください。

「まず書き上げた作品はすべて出版する、ということですね。しかしそれがなかなか難しい。台湾ではまだ読者もたくさんいるわけではないし、ブームというにはほど遠い状況です。台湾ミステリがもっと海外に受け入れられれば――というのは、私の希望です。

ふだんから何かアイディアを思いつくとノートに書き留めているんですが、今のところ短編では十編ぶんのストーリーがあります。一年でだいたい三編ほど書いていますから、短編ではおおよそ三年ぶんのストックがあることになりますね。長編となると、これが一〇冊以上でしょうか。まだまだ増えるでしょう。いくつかの構想はあるのですが、先ほどお話した哲学ミステリもそのひとつです。

それとこれはかなりの大長編になりそうなんですが、大河級の歴史ミステリですね。ただこれに取りかかるにはもっと人生経験を積まないと。まあ、中年以降ですね。今は資料を集めている段階です。とりあえずはこれらを書き上げることが目標です。創作に関して言うと、私はひとつのやりかただけをずっと続けるということができないんですよ。これは言うなれば本能みたいなものでしょうかね」

Q7. あなたの作品は台湾のみならず、中国でも新作が刊行されています。さらに雑誌の編集も手がけていますよね。台湾と中国の出版状況についてはどのように考えていますか?

「華文ミステリに関していうと、簡体字の出版は台湾よりも盛んです。これは市場が大きいのと出版に対して助成が行われているためで、その点、台湾は厳しいといえますかね。台湾ではミステリ雑誌もありませんが、中国では一〇冊はあるはずで、さらに今でも数を増やしています。つまり、現在の台湾では長編の刊行は難しい。この点、皇冠は頼りになる存在ではありますが、短編となると、発表する機会さえありません。これには台湾ミステリには競争する相手がいないこともあるでしょう。そのために動きが鈍い。

短編に関してはいえば、中国の水準はすでに台湾に追いついてきています。五年前は相当な開きがありましたが。長編はまだまだですが、だからといって軽んじるわけにはいきません。この違いには、市場の競争原理がある程度関係しているのではないかと思います。もっと皆が競い合えば、創作も盛り上がるでしょうし、この状況を打破することにも繋がっていくでしょうが――台湾ミステリに関しては、この点だけがやや気がかりではありますね」