麻見氏の新シリーズ。正直、ここ最近は講談社ノベルズの「警視庁捜査一課十一係」以外に色々なシリーズが立ち上がっているので、さらにそうした新企画ものがおしなべて風変わりな娘っ子キャラに男のコンビという体裁ゆえ、若干混乱してしまうのですが、そこはそれ(爆)。
物語は、資料保管室とも呼ばれ、なんとなーく窓際感漂う部署に所属する風変わりな女上司とボーイが、右手首を切断された奇妙な死体の謎に挑むうち、第二の殺人が発生し、――という話。「警視庁捜査一課十一係」をはじめ、作者のシリーズはストレートなフーダニットものというよりは、ミッシングリンクから事件の構図を解き明かしていく捜査のプロセスが見所の刑事ものであるわけですが、本作も同様の風格ながら、今回は「文章心理学」なる技術を身につけた娘ッ子の洞察力をメインにし、彼女のひらめきから事件の真相を次々とたぐり寄せていく展開が見所でしょうか。
レシート一枚から、ありきたりな連想ゲームとは異なる洞察を見せて、事件関係者の居所やその人となりを見抜いていく過程は、さながらホームズ的推理を彷彿とさせ、捜査が始まった早々からこうしたロジックを見せてくれる本作は、今までのシリーズものに比較すると展開も早く、新たな死体がゴロリ、ゴロリと出てきてミッシングリンクを探っていく定番の展開へと流れていく構成も秀逸です。
今回は風変わりな特技を持つ女の子の方ではなく、彼女の部下でちょっとした過去を持つボーイの視点から物語が語られていくのですが、キャラ立ちという点では、「文章心理学」というかなり特殊な飛び道具を備えているゆえか、『特捜7』の似顔絵娘のようなキャラ立ちに無理をしたところも感じられず、かなり自然に登場人物たちの心情をくみ取りながら読み進めていくことができるところも好感度大。
特に「文章心理学」の女の子は、「私、文字フェチなんです」と告白したかと思うと、プルーストの『失われた時を求めて』の冒頭シーンについてさらりと口にしてみたるや、今度は突然、「文字の神様、ありがとうございます!」と声を張り上げてみたりとかなりエキセントリックなところを見せるものの、それでいて普段はどちらかというとおとなしい性格であるところも、作者好みの女性像が見え隠れするというか――(爆)。
本作で描かれる事件に関して言えば、冒頭から「掃除屋」という呼び名で描かれる「犯人」の姿を大胆に登場させながら、警察側の捜査の過程では連続殺人事件に見えながら、まったく異なる事件が同時進行していたことが明かされる展開が素晴らしい。キ印犯人のお遊びかと思われていた様々な足跡が、背後で進行していた事件関係者の明快な意思表示であったことが判明するや意想外な反転を見せる趣向も秀逸です。またその中へ要所要所に「文章心理学」を駆使した技巧を鏤めて、事件関係者の心の綾を女性特有の癒やしによって浄化していく見せ方にも、事件の被害者と加害者の心情を隈なく描こうとする作者の強い意志が感じられます。
「警視庁捜査一課十一係」に「特捜7」、「重犯罪取材班」と、多くのシリーズものを同時進行させる作者ですが、本作では他シリーズとの差別化に苦慮した面影は感じられず、「文章心理学」という特徴的な技法によって、キャラ立ちから事件の構図が明かされる展開までをスマートにまとめてみせた結構には作者の余裕さえ感じられます。個人的には作者の定番といえる「警視庁捜査一課十一係」の次を挙げるとすれば、コレ、というくらいお気に入りのシリーズになりそうな予感、――作者のシリーズものを全て読破している自分のような物好き(?)ならずとも、ときおり昭和の刑事モンを懐かしく思い出すようなロートルの御仁も愉しむことができるのではないでしょうか。オススメ、です。