『閻魔堂沙羅の推理奇譚』シリーズの五作目。これもずっと前に購入していたものの、昨年はほとんど小説を読まなくなってしまったため、長きにわたり積読状態だった一冊。つい先ほど読了しました。
収録作は、天才ながらナマケモノゆえにバトミントン人生を諦めた妹が再びオリンピック選手を目指そうとした矢先に殺される「澤木夏帆23歳」、ナルシスト君がひょんなことからネクラっぽいいじめられっ娘と知り合い、令嬢の奇妙な振る舞いを探る「相楽大地17歳」、社長の座を射止めた男の忌まわしい過去が水も飲めない渇死を引き寄せる「土橋昇39歳」の全三編。
このシリーズ、基本的に悪人は出てこないのですが、今回は最後を飾る三話目がふるっていて、ご臨終となったこの男は若かりし頃の過ちといえ人を殺めているところが新機軸。さらに加えてこのシリーズの定石――死んだ人物が推理をして自らの死の真相を突き止め、閻魔堂がその裁定を行うという――の背景を了解している読者に仕掛けられた意想外な趣向が秀逸です。
この三話目とともに、一話、二話にも共通していることなのですが、今回は推理のあとのエピローグがやや長く、生還した人物の心情やその後の行動をしっかりと描き出しているところがとてもイイ。登場人物や物語の展開、さらには事件の構図も含めて奇を衒ったところはひとつもない本シリーズですが、過去に戻された主人公は沙羅が助けて窮地を逃れるという展開もしっかり板についてすらすらと読み進めることができるのも本作の魅力でしょう。
推理に関しては平易でここでもあまり奇抜な仕掛けはなく、「相楽大地17歳」にいたっては想像・推理した通りのオチながら、不思議とそれが不満にならない。もっともシリーズ最初のころは「簡単すぎて話にならねェ!」とブーたれていた記憶もあるのですが、五作目となるとそのあたりは作風と納得して愉しむことにしています。
個人的にはやはり三話目が印象に残りました。閻魔堂の存在を除けば、その推理はリアリズムに立脚するものという読者の先入観を交わして、斜め上の「怪異」から真犯人の存在が明らかにされていく趣向を反則とみるか、あるいはシリーズものならではの騙し技ととるか、――ここをどうとらえるかによって評価は真っ二つに分かれるような気がします。個人的にはこの仕掛けは十分にアリ。
すでに安定期に入った五作目で意外な趣向を添えてみせたところなど、まだまだ隠し球を持っていそうな本シリーズ、すでに『閻魔堂沙羅の推理奇譚 金曜日の神隠し』が刊行され、来月には『閻魔堂沙羅の推理奇譚 A+B+Cの殺人』が出るとのこと。ここまで続くということはやはり人気があるのでしょう。
イージーな推理でありながら、人物描写や沙羅に対するキャラ萌えが受けているのかもしれません――ってちょっと調べてみたら、中条あやみをヒロインにドラマ化されるということをたった今知りました。中条あやみ……沙羅を演るなら玉城ティナかな、と想像していたのですが、中条あやみも個人的には十分にアリ(爆)。こちらも併せて期待したいと思います。