大きく話題には上らないものの(それとも自分の知らないところで大ヒットしているトカ?)、そのライトな読み口から新刊が出るのを楽しみにしている本シリーズもすでに四冊目。安定の水準を保ちながら、今回は閻魔堂一家の内実を明かした番外編的一編を収録していたりと、ファンにとってはなかなか嬉しい内容となっています。
収録作は、冴えない絵描きの親父と二人暮らしの娘っ子の廻りに起こった小事件が彼女の撲殺を引き寄せてしまう第一話に、足を洗ってうどん屋を開業した男が、組の抗争絡みのコロシへと巻き込まれてしまう第三話、さらに閻魔堂一家の日常を描いたタイトル通りの「閻魔堂沙羅の日常」の全三編。
第一話は、娘っ子の廻りに先生の不倫写真スキャンダルや、本命とは違うクラス・メートが演劇の配役でイケメン君の相方に選ばれたり、冴えない親父の絵が高値で売れたりといった小事件が発生。これらバラバラの事象が推理によって結びつくとき、彼女のコロシの真相が明かされるのだが、――という話。このシリーズの推理は結構イージーモードで、その軽さとわかりやすさが面白かったのですが、今回は登場人物と小事件をそれぞれうまく鏤めるとともに、ヒロインがほぼ同時に複数回襲われる事件を配することで、ホンの少しだけ複雑化させているところがキモ。フーダニットの真相は入り組んでいるように見える小事件をうまく仕分けていくことで見えてくるのですが、事件の構図の妙に配慮した見せ方が、今まで以上にうまくできていてチと吃驚。
第三話となる元ヤクザのコロシに関しても同様で、主人公が隠していたあるブツをある人物に渡してしまったばかりに事件の真相が見えにくくなっているのですが、ここにも人間心理の妙を巧みに添えてみせることで、リアルでもありそうな構図へとまとめてみせた手法がまた見事。大掛かりなトリックを労せずとも、しっかりと謎解きを愉しめる作風へと進化しており、軽やかな人情ものとしてしっかりと読ませながらも、ミステリとしての強度が増しているところが素晴らしい。
ガチなマニアには物足りなさも感じられるのではないかと推察されるものの、作者渾身の大長編ばかり読まされている読者にとっては、たまにはこうした胃にもたれないアッサリ風味のミステリも読んでみたいもの。個人的にはこうした作風のシリーズが続けられていることは大歓迎で、それにくわえて本作では閻魔堂一家の“人間らしい”暮らしぶりが明かされたりと、話は少ないながらもファンにはタマらない一冊となっています。デビュー作から追いかけている自分のようなファンも安心して愉しめるのではないでしょうか。オススメです。
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