石塚桜子展『マイルーツ』―石塚桜子・島田荘司トークショー(4)

前回の続きです。本当はもう少し後があるのですが、ノイズがひどくド素人の自分にはテープ起こしが無理ということで途中で断念。今回は桜子さんのベルリンの印象から、御大の東ベルリンでのエピソード、さらには『アルカトラズ幻想』のモチーフの一つでもある恐竜の話題へと移っていきます。

RICOH GXR + A12 MOUNT with YASHICA ML 24mm F2.8

 

 
(ベルリン時代の絵の前で)
石塚「こちらもちょっと……2010年にベルリンに行ってたんですけど、その頃に、このような絵を描いていて」
島田「(海外から飛行機で持ち帰ってきたという一枚の絵を指さして)これは……丸めて持って帰られて……丸めたままのを見せていただいたことがありましたけど、痛まないものなんですか」
石塚「いやー、ぎりぎりのことですね。あの、描いて丸めて……その丸めたときの状態が短かい時間だったので、飛行機に乗って、翌日帰ってきてすぐに業者さんに貼ってもらったので……非常にラッキーでした」

(ちょっとこのあたりでノイズがひどくうまく録音できていませんでした。石塚桜子さんのベルリンの印象についての話題です)
石塚「いやー、暗い町並みですね。東側に住んでたんですけど、アパートももう、見てくれはぼろぼろで中は綺麗なんですけど」
島田「東側にいたんですか」
石塚「ええ」
島田「ベルリンのですか」
石塚「ええ、未だに経済格差があって、ベルリンの壁が壊れているのに経済格差があって、そこは移民の方々がいっぱい住んでるところに住んでたんで、いろんな方々がいろんな仕事をしてて、必死になって生きてる地域にちょっと間借りしてまして、それで眼にしたこととか、感じたこととかは衝撃的なことで、もう、住んでみなければ判らない、旅行者の眼ではないという……」
島田「私は壁があるころに行きました。そしたら一日ビザを発行してくれて観光バスで見せてくれるというのがあったんですね。それで西ベルリン側から乗りますと、門を通過するときにね」
桜子「ブランテルブルグ門?」
島田「ええ。(住んでいたところは)門から近かったんですか?」
石塚「直通で行けるところなんですけど……」
島田「ああ、そうですか。ヒトラーが自決した豪とかは行ってはみませんでした? あれは、入れないのかな」
石塚「いやー、ちょっとユダヤ人の記念碑とか、モニュメントとかは全面展開してアピールしてるんですが、ヒットラーの情報はなかったですね、特に」
島田「うーん、まあ避けているかもしれませんね。で、そのゲートを通過するときにね、バスの横にトランクの大きいのがありまして人が隠れていたり……前にそういうことがあったのかもれない。それから椅子の下のところに隠れているようなことがあったということで、東ベルリン側の警察が乗ってくるんですね。それがもう、絵に描いたような怖い顔をした人たちで。だけどね、そのヒトラーが感じたような知的な暗さというか、そういうものはやはり感じるんですよね。それでドイツに行かれたというのを聞いて、それはいいなと思いました」
石塚「非常にいいチャンスでした。ニューヨークとロンドンで迷ったんですが、いやベルリンだろうと。何とか行ってみて、痛感しまして。非常に嬉しく思いました。今でも本当に一年間すべてがこう、きらきらしてまして、学ぶことも多く、失策することも多く、で、あの……自分の将来の行く末とか色々なことを考えました」
島田「最近動画で見たんですけど、チェルノブイリの原発が壊れました。まあ、あれは日本と違ってひとつだけなんですが、遠くに望めるような場所に原発関係者が暮らしていたアパートがあるんですね、それが廃墟になっているんですけど、それがなかなか胸に迫るものがあります。あれなんかご覧になると、また桜子さん、絵に現れてこないかなと思いますね。こういう時代ですからね。どうもそういうものを感じてしまうわけですれど。これなんかは懐かしくてね、ちょっと前も言いましたが、アン・ウェイウェィさんという、中国の芸術家がいるんですが、ワシントンで個展を開きましたが、彼の絵もやはりこういうのがあるんですよ。頭にこういうのが描かれている」
石塚「一本の入れ墨のね」
島田「彼はおそらく反体制芸術家で獄中で木刀で殴られたんですね。脳内出血をして手術をしたらしいんです。で、その手術痕を表現しているんだろうと思いましたけど。こういうがね、何か似たものが現れてくる……時代の雰囲気みたいなものが出てきてしまうんですね」
石塚「鉄条網みたいな……危険なものっていうか、そういうものが無意識にあるんだと思います」
島田「これをその……やはり描いてしまうわけですね。ある種のプレッシャーみたいなものを感じて」
石塚「そうです。どうしても必要なものだと思ってしまうんです。そのときに」
島田「これも……」
石塚「『ダイナソー』というタイトルで、やはりこう人が立ち上がるという、そのエネルギー、それをこう、表現するにはやはり赤と黒に絞ってそこでぐわーっと口を開けた顔があるんですけど、周りのものは不穏な感じがして……眼からは閃光が飛び散るようなかんじですね」
島田「ダイナソーはね、恐竜という意味ですけど、ダイナソーほど不思議なものはないんですよね。世界最強のダイナソーと言われるのは、ティラノサウルス、これはもうタイラント、暴君から来ている、これ肉食獣として超強力。歯がものすごいわけですね。一説によると噛みつくバイト力は八トンと言われています。ところが体重が五トンなんですね。象は五トンなんです。しかし四本の太い足でようやく支えている。象は肉食ではありませんね。それは追いつけないからです。しかしダイナソーは二本の足で、しかも細いです。立っていられるわけなんですよ。これは大変な不思議。ミステリーですね」

このあともう少し、桜子さんが初期のころに描かれた絵について二人のお話があったんですが、いかんせんノイズがひどくてテープ起こしは断念(泣)。佐藤美術館の石塚桜子展『マイルーツ』は明後日の日曜日十六日まで。二人のトークの中でも語られていた『透明人間の納屋』の表紙絵である大作『響振』も展示されているので、御大ファンもかなり愉しめるかと思います。オススメでしょう。

石塚桜子展『マイルーツ』―石塚桜子・島田荘司トークショー(1)
石塚桜子展『マイルーツ』―石塚桜子・島田荘司トークショー(2)
石塚桜子展『マイルーツ』―石塚桜子・島田荘司トークショー(3)