硝子の探偵と消えた白バイ / 小島 正樹

硝子の探偵と消えた白バイ / 小島 正樹 「2013夏、小島正樹の「やりすぎミステリー」が熱すぎ!」という惹句で始まった『怒濤の3社連続刊行第1弾!』となる本作、「やりすぎ」というには過去作に比較すると非常におとなしく感じられる作風は昔からのファンからするとちょっとなァ……というのが正直な感想ではあるものの、個人的にはやりすぎという量的戦略よりも、探偵キャラに込められた意想外なドラマや仕掛け、さらにはフーダニットに注力した予想の斜め上をいく展開に惹かれました。

物語は、タイトルに消えた白バイとある通りに、とある建物の中に入っていったた白バイの消失と出現という小島ミステリならではの大胆な謎にはじまり、過去の逸話も交えて繰り返される消失事件と射殺死体のコンボを”自称”名探偵が推理していく、というもの。

「硝子の探偵」”と”「消えた白バイ」というふうに、本作におけるメインの趣向が探偵キャラ”と”消えた白バイという謎にあることはタイトルにも明確に記されているわけですが、名探偵が”自称”であるというジャケ帯の注意書きが心憎い。

訳ありの可愛い助手君はその特殊技能によってもっぱら事件現場の「気づき」で見事な仕事ぶりを発揮し、眉目秀麗な探偵もたびたび助手君の気づきから推理を披露してくれるものの、その内容はいずれもアレ。特に「消えた白バイ」の謎については、読者が初段階で考えるであろう推理をさらりと披露してくれるものの、あっさりとダメだしされてしまいます。しかしこのいかにも上滑りした”名探偵”ぶりを見せた逸話が、最後に駆け足で展開される怒濤の真相開示でドラマチックな効果を与えているところに注目でしょう。

特に自分が感心した、というか驚いたのが、前半で浮上してきた変態ストーカー事件から妙な方向のフーダニットへと流れていく見せ方で、すっかりこのストーカーの被害者やその周辺から犯人を見つけていくのかと思っていると、これが白バイ消失事件と奇妙な繋がりをみせ、警察小説のような展開で読者を引き込んでいきます。

射殺事件については、初期の小島ミステリのような大仕掛けというよりは、様々な要素を組み合わせて一つの絵図を構築していく近作ならではの味付けではあるものの、やはり本丸の謎はタイトルにもある「消えた白バイ」。射殺事件でもまあ、それなりの名探偵ぶりを見せてくれた探偵役の男が、あることをきっかけに吃驚するような豹変ぶりを経て、怒濤の謎解きへと突き進んでいくラストの変転が凄まじい。何だかラスト数ページは「打ち切りにあった連載漫画の最終回」みたいな慌ただしさで、このヤケクソぶりはおおよそ照れ屋の小島氏らしくないキザなラヴ・シーンで幕となります。

本丸の謎である消えた白バイの真相は、いったん否定された推理の見方を変えて再構築したものともいえ、物理トリックそのものよりも推理の見方を変えることで真相を開示するというこの謎解きの技巧は、小島ミステリとしてはかなりの新機軸といえるのではないでしょうか。たたみかけるような大仰な物理トリックの大技で魅せてくれた過去作に比較すると、本作の場合、一つの大技を変幻自在なカメラワークで切り取り、その編集技法によって新味を創出したような趣があります。

個人的には本作、『武家屋敷の殺人』や『十三回忌』のような「やりすぎミステリー」ではなく、『祟り火の一族』や『龍の寺の晒し首』のような作風をもっと判りやすく整理してキャラ小説の魅力を施した一冊という印象です。シリーズ化は確実と思われる本作、タイトルにもある「硝子の探偵」の”真相”についてはすでに種明かしを終えてしまったともいえるわけで、次作からは助手君との連携捜査も含めてどのようなドラマを魅せてくれるのか、――キャラ小説という修羅の道へと歩みをはじめた作者の次なる一手を期待したいと思います。