シュークリーム・パニック ―生チョコレート― / 倉知淳

シュークリーム・パニック ―生チョコレート― / 倉知淳 表題作のない短編三編を収録した一冊。ジャケが制服を着た可愛い娘っ子ということから、一番のウリは、おそらく「夏の終わりと僕らの影と」ではないかと推察されるものの、個人的にはブラックな幕引きが際だつ前二編がツボでした。

収録作は、馬券売り場で怪しい人物から声をかけられたビンボー君が奇妙な強盗事件に巻き込まれる「現金強奪作戦!(但し現地集合)」、バーで妙な男から賭け事を持ち込まれた男が堕ちた奸計とは「強運の男」、夏休みに憧れの娘っ子をヒロインにはじめた映画撮影、ラストシーンで消失した彼女の謎に迫る「夏の終わりと僕らの影と」の全三編。

「現金強奪作戦!(但し現地集合)」は、何だか福本伸行の『銀と金』の最終話みたいな出だしから始まるのですが、借金地獄のボーイがいかにも怪しげな男に従うまま銀行強盗の片棒を担がされ、――という話。強盗の実行に移すまでのプロセスがざっと語られたあと、タイトルにもある現地集合でいよいよ件の銀行行動劇が始まるのですが、サスペンスもナッシングの何とも煮え切らない結末に呆然としていると、その裏で隠微に進行していた奸計が明かされるという結構です。

犯行に到るまでに主人公がフと耳にしたある言葉が思わぬ伏線として絡んでくる謎解きの経過や、主人公が行うことになった「犯行」の裏に隠された構図など、泡坂妻夫の某短編を思い起こさずにはいられないまとめかたにニンマリ至極。収録作の中では一番の好みでしょうか。

続く「強運の男」はミステリというよりは、奇妙な味を前面に押し出した一編で、これまた見知らぬ人物から声をかけられてささやかな賭け事を持ちかけられるという展開が何ともスムーズ。件の男からけしかけられる賭けに悉く勝利してしまう主人公と同様、こちらもコレには何かトリックがあるんだろうナ、なんて勘ぐりながら読み進めていくわけですが、トリックや仕掛けとは違う方向からブラックな計略が明かされる後半が何とも痛気持ちいい。ブラックにして奇妙な味の短編と構えていると、読者は先廻りして予想通りの結末かと嘆息してしまう可能性大なので、本格ミステリの短編集を標榜した本作に収録されているからこその、黒い妙味を堪能できるという一編でしょうか。

頁数はもっとも長く、またミステリとしての謎も明快なのが、最後の「夏の終わりと僕らの影と」で、準密室状態からの人間消失という何とも王道を行く謎は、容易にその真相まで読者に気取らせてしまうという脇の甘さが見られるものの、本作の見所は、人間消失のハウダニットよりも、ホワイダニット。こちらもその動機に絡めて、なぜこんなまどろっこしい謎を仕掛けなければならなかったのか、という理由が、前半に胸キュンなシーンとともにさりげなく伏線として添えられているところが心憎い。基本は青春恋愛ミステリの風格が際だつ本編だからこそ、この伏線の添え方にニンマリとしてしまいます。

全体的には、本格ミステリとしてはやや緩い作品が収録されているため、シュークリームならぬ「さしずめマシュマロでも喰いすぎたような気持ちしかない」のですが、『名探偵の証明』が鮎川賞を受賞するこのご時世ですから、ヤングをターゲットにした可愛いジャケと甘さで本格ミステリファンの裾野を広げていく本作の戦略もまた、それはそれでアリなのではないでしょうか、――とまとめつつ、やっぱり『星降り山荘の殺人』とか『過ぎ行く風はみどり色』とか『壺中の天国』みたいのが読みたいナー、なんてボヤいてしまう自分も歳を取った、……と感じ入ってしまうのでありました。