少し前からボチボチと取りあげ始めたエロ怖シリーズ、宇佐美まこと女史が結構な数の作品を発表していて、とりあえず完全読破を目指しています(爆)。先日感想をあげた『の・ぞ・く――天窓の下』はホラー的な結構の中に本格ミステリでは定番の技巧を織り込んだ傑作でしたが、本作も大当たり。
物語は、両親を事故で亡くした娘ッ子がオバさんの家に預けられることになるのだが、曰くアリのその家で彼女は美術教師との淫らな過去を回想し、――という話。エロ的な見せ場では、フェチな美術教師との淫らに過ぎるじらしプレイと駆け引きが秀逸で、男であればしてみたい、教師役で女子高生との変態プレイという妄想を体現したシーンがなかなかのボリュームで盛り込まれているゆえ、淑女向けのエロレーベルであろうエロ怖の中でも、男性読者に配慮したサービスが何とも嬉しい。
インテリにして変態な美術教師とした、あんなことこんなことをひきこもりの娘っ子は振り返って自慰に勤しむわけですが、そんな彼女の前にあるモノが登場することをきっかけに、物語は怪談へと傾斜していきます。そこにいたるまでの周到な伏線と舞台設定、登場人物たちの配置が見事で、これが本格ミステリとして提示されていたのであれば、この仕掛けも容易に見抜くことができたものの、エロと怪談的趣向のコンボを前に、自分はこの仕掛けの可能性を完全に見過ごしてしまいました。そして終盤、哀切と虚無感漂う真相を突きつけらるにいたって、ミステリとしては既視感のあるこの仕掛けを嗤う暇もなく、唖然としてしまった次第です。
怪談に擬態して、――というよりはそもそもが怪談なわけですから、むしろ本作は、怪談の中に本格ミステリの技巧を織り込んだ作品と見るべきでしょう。ミステリにおける事件を濃密に臭わせつつ、最後の最後に仕掛けを明かしてみせた結構の『の・ぞ・く――天窓の下』とは異なるアプローチながら、仕掛けによって読者を驚かせる見せ方に、宇佐美女史の並々ならぬミステリ魂を感じた次第です。
『愛玩人形』や『の・ぞ・く――天窓の下』では、見てくれも外道の変態男子がアグレッシヴな異能を発揮して、綺羅光にも通じたエロティシズムを魅せてくれましたが、本作の美術教師はそうした気持ちワルイ変態男とは違って、少なくとも外見は限りなくノーマルに近いゆえ、心の奥底に変態嗜好を隠した読書女子がアブノーマルなロマンスに浸るにも好適といえる本作、怪談やホラーという点では、その変態ぶりからやや敷居が高かった『愛玩人形』などに比べれば、そのミステリ的な技巧も含めて、一般の読者も愉しめるのではないでしょうか。オススメです。